2025年6月17日(火)

Wedge REPORT

2025年6月6日

マスメディアが加担するマッチポンプ・クレイム

 一部識者や報道機関自身が率先して根拠や客観性、正当性に乏しい「汚染」「危険」「問題」を指摘し、「優先的に議論されるべき社会問題」「救われるべき弱者・被害者」「詳しい専門家」などを恣意的に設定して人々の不安や関心を煽り、世論形成やクレイム申し立てを促す。不都合な事実や反論は取り上げず、透明化させる──。いわば「マッチポンプ・クレイム」とでも名付けられる構図が今、事あるごとに日本社会の足枷となっている。

 たとえば、東京電力福島第一原子力発電所から海洋放出されている多核種除去設備(ALPS)処理水は典型例だ。汚染など起こさないことは科学的に証明されているはずのALPS処理水に対し、一部の報道が未処理の汚染水や放出前に追加処理することが前提の処理途上水と混同させ、「汚染」を印象付ける喧伝を繰り返した。その結果、ALPS処理水海洋放出は巨大な社会問題と化し、中国やロシアが「問題」と指摘つづける外交課題に発展し、莫大な追加対策費と長い時間を費やすことになった。

 科学的安全性が社会に広まった後も、海洋放出反対運動の論点は「汚染」「危険性」から、「人々の不安」「合意形成の不備」などにシフトしていった。こうした「恣意的な社会問題化」「反対論点の移行」はALPS処理水海洋放出問題以前に起きた豊洲新市場問題でも共通している。

 そればかりではなく、過去に大きな社会問題にされてきた諸問題も思い出して頂きたい。たとえばモリカケ桜、2020年東京オリンピック反対、安倍晋三元首相の国葬反対、大阪・関西万博反対──。マッチポンプ・クレイムは、あらゆる社会問題で繰り返されてきたと言っても過言ではないと言えるのではないか。

 特に近年は世界情勢の緊張に伴い、偽・誤情報を用いた情報戦、インフルエンス・オペレーションが我々の身近な日常にも浸透している。ALPS処理水に対する「汚染」喧伝にも、中露北朝鮮による情報工作の関与があったことが繰り返し報じられた。韓国で公安に逮捕された北朝鮮スパイから押収された指令書には、SNSや市民団体などを利用してALPS処理水に対する反対運動や「汚染」喧伝活動を活発化させ、日韓関係を破壊したり社会を混乱させるための手段が詳細に記録されていたという。(NHK『いまも残る“フェイク”の影響 処理水放出から1年』2024年8月24日、読売新聞『北朝鮮、処理水巡り韓国で反日扇動…スパイ組織に指令「日韓対立を取り返しつかない状況に追い込め」』2025年1月9日)


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