2025年12月5日(金)

Wedge REPORT

2025年6月13日

借り物の設計思想

 林野庁が定めた林道規程によって林道設計の根幹となる基準が定められている。

 簡単に説明すると、原木(丸太)を積んだトラックが安全、快適に走行できるような線形(路線の平面形状)を決めているのだ。林道は、ふつう1車線で、大規模林道と称された2車線のものもあるが、ここでは一般的な1車線のものについて論じよう。

 その線形を決定するものは設計速度で、トラックが30キロメートルの速度で無理なく走れることが想定される。この設計速度が大きくなるにつれて線形は直線に近く、ゆるいカーブになるのだ。新東名高速道路では最高制限速度が120キロメートルだから、カーブは極めて緩やかで高速でも走りやすいようにできている。

 そこで林道の線形である。山岳地帯で高速道路のような直線に近い線形とすれば、山を削り、谷を埋め、土工量が膨大になる。そうなると、山は削れば削るだけ、谷を埋めれば埋めるだけ、土砂災害の発生する危険が高まる。

 したがって、速度を設計の基準にすることをやめて、なるべく地形に沿った線形として、土砂崩壊の危険を抑え、土工量の削減=経費の節減を図るべきではないか。

 そもそも設計速度の思想は、国土交通省の道路構造令を援用したもので、林道独自のものではないのだ。林道の場合は、ある程度運転者の快適性を犠牲にしてでも、林地の保全に努めることを第一義とすべきなのである。

林道規程の抜本的改正と専用車両の開発

 林道では、軽四輪車でも時速30キロメートルで走るとちょっと怖い。通常砂利敷の路面は竣工直後ならともかく1年も経つと荒れて、到底30キロメートルで走ることはできない。

 だから実態に即して、最初から速度を犠牲にして、地形に沿った線形とし、林地の保全を優先させる方が合理的なのである。こうした思想の転換を図って、林道規程を根本から改正すべきである。

 急カーブが多くなってトラックが走行しにくいというのなら、それ向きのトラックを開発すれば良いのだ。トラックをはじめ林業用車両の多くは林業向けの専用機ではなく、一般向けのものを林業用として使っている。専用機となれば開発費用も高くなるが、こういう時こそ国庫補助金の出番ではないか。林地の保全を確保できる林道と走行車両を一体のシステムとして、トータルで構想・運用すべきである。

 現在は柱取り程度の比較的細い丸太が生産の主体になっていて、伐期を延長して品質を高めることが必要だという論議をすると、丸太のサイズが大きくなって今の林道では搬出できない、林道の拡幅が必要だという論議に陥る。林道のサイズに木材の品質・規格が制限されるなどとはそれこそ本末転倒だ。このような思考では、森林・林業に明るい未来はない。

 機械については、項を改めてまた述べることとしたい。


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