2025年12月5日(金)

勝負の分かれ目

2025年6月20日

取材機会をも取り上げた危うさ

 事の発端は昨季の日本Sが、大谷選手が初のWS制覇をかけた戦いと日程で重なったことだった。ドジャースはメジャー史上初の同一シーズンでの「50本塁打、50盗塁」を達成した大谷選手だけでなく、山本由伸投手も所属し、相手も名門のヤンキースだったことから注目が高かった。そして、WSの放映権を持っていたのがフジテレビだった。

 日本SとWSは時差の関係で、日本時間ではWSが午前中、日本Sがナイターと放送時間帯に棲み分けができていた。ただ、大谷選手らへの注目は高く、スポーツ紙などもWSを大々的に取り上げるなど、国内の関心はWSへ傾いていたのが実情だった。そこで、フジテレビは午前の試合中継に加え、他局の日本シリーズ放映と同じ夜の時間帯にも急遽、ダイジェスト版を放送した。

 このことが、NPBにとっては「信頼関係が著しく毀損された」と許せなかった。報道によれば、NPBは、フジテレビが予定していた日本シリーズ第3戦の中継を他局へ移そうとし、24年11月10日まであった野球日本代表「侍ジャパン」の強化試合でも、フジテレビに取材パスを発行しなかったという。サンケイスポーツの記事で、NPBの中村勝彦事務局長は公取委からの警告を受け、「他局(他のテレビ局)さん、スポンサーなどとの関係性を考えて、そうせざるを得なかった」と訴えた。

 報道の視点からとらえた今回の問題の危うさは、テレビ局の試合中継に関するNPBの制裁が、報道部門の「取材機会」に向けられたことにあった。同じテレビ局でも、試合中継とニュース報道は部門が違う。報道の記者には中継権の有無に関係なく、取材パスが発行される。パスがなければ、日本Sの期間中にスタジアム内での監督や選手への取材などができないことになる。

 それだけではない。スポーツジャーナリストの鷲田康氏はスポーツ総合雑誌『Sports Graphic Number』の公式サイト「Number Web」の24年11月15日付記事で「事件、事故などが(スタジアム内で※筆者による加筆)起これば、それも報道するし、時にはNPBや12球団にとって不都合な事実を報じなければならない役割を担うこともある」と取材パスの重要性を強調する。

 鷲田氏はその上で、プロ野球を「文化的公共財」と位置漬け、NPBが取材する権利を恣意的にコントロールすることを許せば、「メディアの正確なプロ野球報道の妨げとなる危険性にも繋がりかねない」と警笛を鳴らした。

メディア側も精進が必要

 メディアは、政治家や芸能人らの不祥事や疑惑についても、当事者たちの説明責任を求めて記者会見を求め、会見でも厳しく追及したり、公式、非公式の垣根を越えて様々な取材活動を行ったりしている。「第4の権力」と呼ばれるメディアの取材時の傲慢さなどが批判の対象となることもあり、報道機関も改善すべき余地は多々あるが、それでも、取材は対象者に対する強制力はなく、報道機関が置かれている立場は決して強固ではない。

 警察、検察のような行政組織や、民間企業やNPBのような団体において、特定のメディアの記事などをめぐって、その後の取材を拒否することはメディア側に問題がある場合も含め決して珍しいことではない。NPBやプロ野球の球団も、これまで取材禁止などの“ペナルティー”を与えてきた。


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