中国の国益がつくる「地球生命共同体」
実際、近年の「生物多様性保護のためのパンダ繁殖国際協力」諸事例を見てみると、「中華民族の偉大な復興」「人類運命共同体」「地球生命共同体」実現に向けた動きと合致していることが明らかであり、かつ中国は確実に、グローバル・サウスとのパンダ保護協力を強めようとしている。一方、中国との二国間関係の変容や高額の協力金負担ゆえに、パンダが中国に戻り断絶してしまう事例も現れている。
以下、ここ5年ほどの中国外交部定例記者会見の内容を「熊猫」というキーワードで検索した結果から見えて来た各国ごとの事情を概観し、比較の材料として供したい。
中国との関係が揺らいでいる国はパンダの行方も不透明である。
パンダをめぐる米国との駆け引き
米国と中国の「パンダ保護国際協力」は今日まで、大国同士の複雑な駆け引きそのものの様相を呈してきた。
改革開放初期には先述の通り、パンダ積極貸与と乱獲という状況が見られた中、米国の動物園水族館協会はWWFとともに鋭く反応し、加盟動物園に対してパンダ保護展示をめぐるWWFの規範を遵守するよう厳しい態度をとった。そして実際、規範に即さず安易にパンダをレンタルしたコロンビア動物園の会員資格が取り消されたことが波紋を呼んだ中、米国におけるパンダブームの収束にもつながった。
その結果、正式な保護協定を通じて米国に来たパンダが次第に中国に戻り、代わりに米国に来るパンダが減る中、近年の米中関係悪化は米国内のパンダ減少に拍車を掛け、23年にはアトランタ動物園の4頭を残すのみとなった。
そこで米国内のパンダファンの間で懸念が高まっていたところ、同年11月にサンフランシスコを訪問した習近平氏は「パンダは中米人民の友好の使者である」と述べ、複数のパンダを改めて米国に送ると表明し、24年には中米間の新たなパンダ保護協力協定が合意に至った。
それはもちろん、行き詰まった中米関係を打開したいという中国側の意向と無縁ではないが、同時に中国側は、米国こそが中国との協力によるグローバル秩序維持の王道に戻るよう釘を刺すことを忘れない。実際、習近平氏はサンフランシスコ訪問時の演説で、中米両国が共に手を携えて「反ファシスト戦争」である第二次世界大戦に勝利し、聯合国(国連)を発足させたことを再確認せよと強調。米国が大国の責任感において寛容の精神を持つことで、中華文明の智慧に根ざした中国共産党体制を尊重すべきであり、中国が主導する「一帯一路」「グローバル文明イニシアチブ」「人類運命共同体」は米国にも開かれていると念を押した。
米国が、このような習近平氏の主張をどこまで傾聴に値すると考えたかは未知数であるが、何はともあれ最近米国に送られることになったパンダは、現実の中米関係が混迷し、中国の発展にも死活的な影響を与えうるからこそ、まずは米国民の中国への歓心を再び喚起するという重大な任務を負わされていることが分かる(いささか見切り発車ではあるが)。


