海峡封鎖リスクの高まり
今般の米国によるイラン攻撃は、ホルムズ海峡の封鎖リスクをより一段と高めた。米軍がイランの核施設3カ所を攻撃したのを受け、イラン議会はホルムズ海峡の封鎖を承認した。実行にはイラン国家安全保障最高評議会の決定が必要だが、イスラエルに肩入れする米国を牽制するカードとして、イランはホルムズ海峡の封鎖を検討し始めた。
ただ実際に、イランがホルムズ海峡を物理的に封鎖できるかは不確かである。イランが軍の海上展開や機雷の設置を通じて、自国領海で船舶の航路を遮断できたとしても、対岸のオマーンおよびUAEの領海内で航行への妨害活動を行えば、それは主権の侵害に該当する可能性がある。
仮にホルムズ海峡経由の資源輸出が停止すれば、イラン側にも悪影響が及ぶ。イランが23年から関係改善を進めてきたアラブ湾岸諸国が経済的打撃を受け、イランへの不満を募らせれば、イランが中東地域で孤立を深める結果となる。
また、イランにとって重要な財政収入源である石油収入が低下する恐れもある。最大規模の石油輸出港はホルムズ海峡内のハールグ(Kharg)島にあるため、封鎖の影響を避けられない。
イランは21年にホルムズ海峡を迂回する目的でインド洋側にジャースク(Jask)石油輸出港を建設した。しかし、グーレ(Goureh)・ジャースク原油パイプラインの輸送能力(100万bpd)には制約があるため、輸出分全て(24年平均160万bpd)を同港に運ぶことはできないだろう。
一方、留意すべき点は、イランがホルムズ海峡を完全に封鎖しなくとも、同海峡が通航不可に陥る状況も生じることだ。ホルムズ海峡周辺での軍事衝突や船舶に対する威嚇・武力行使を背景に、船舶保険会社がホルムズ海峡を通過する商船に対し、海上保険の適用を停止したり、高額な戦争リスク保険料を求めたりする事態が想定される。その場合、多くの船舶が航行リスクや採算性を考慮し、通航を断念せざるを得ないだろう。
類似例は、イエメン拠点のフーシ派による紅海での商船攻撃である。影響を受ける船舶は紅海側の航路を避け、喜望峰ルートへの迂回を強いられている。ホルムズ海峡の場合、代替の航路が存在しないことから、同海峡の航行不能による物流の寸断は、世界のエネルギー市場に深刻な影響を及ぼす。