EVへの補助打ち切りに乗り出したトランプ政権
バイデン前大統領は、EV支援制度を導入したが、トランプ大統領は消費者の選択肢を増やすべきとの立場に立ちEVへの補助制度の廃止を明言し、すでに運輸省はEV充電設備への補助金支出を凍結してる。
バイデン政権が導入したEV1台当たり最大7500ドルの補助金の打ち切りを織り込んだ法案(One Big Beautiful Bill)も僅差で5月に下院、7月1日に上院を通過した。上院では議事妨害を避けるため単純過半数で議決可能な財政調整措置が用いられた。
法案が、減税措置に加え貧困層に対する医療、食料補助の受給資格基準の見直しによる歳出減、バイデン政権のインフレ抑制法下の補助金の削減を含んでいたため、影響を受ける州あるいは財政赤字の拡大を懸念する共和党上院議員3人の造反があり、採決は50-50となった。最後はバンス副大統領兼上院議長が議長決済票を投じた。
下院案ではEVに関する補助金は、今年末(一部車種は来年)打ち切りとされていたが、上院案では9月末打ち切りとなった。今後上下院が調整することになる。
マスクは、法案に「強い嫌悪感をおぼえる」と述べていたが、上院で投票が始まった際には、「選挙中に歳出削減を訴えていながら賛成した議員は、恥ずかしさで顔を上げることもできない」と投稿し、第3の政党の設立にも触れた。
マスクは、大統領選時からのトランプ大統領のEVへの厳しい姿勢に理解を示していた。その理由は、EVへの補助制度がテスラよりも競合相手に有利に働いているとの認識があったためだ。
しかし、欧米市場でのテスラ車の販売の落ち込みがマスクの予想を超えたためか、最近はトランプ大統領のEVへの補助制度の廃止に疑問を呈していた。
そんなマスクに対し、トランプ大統領はさらに追い打ちをかけた。全米一のEV市場カリフォルニア州で州政府が導入した「35年の自動車販売を100%EV」にする州法の廃止を連邦政府議会が決定し、トランプ大統領が認めたのだ。テスラにはさらに痛手だ。
カリフォルニア州のニューサム知事は、次期大統領候補と目される民主党のホープだ。トランプ大統領の1期目から両氏は対立していたが、ニューサム知事は連邦政府が決定する権限はないとして、他10州と共同で訴えを起こし、さらにEV導入について新州法の制定を目指すと表明した。EVを巡ってもトランプとニューサム知事の対立は続きそうだ。
成長する世界のEV市場
24年の世界のEV販売台数は、1750万台。中国市場の販売台数が1130万台、世界販売の約6割を占める。中国市場での販売台数は、23年の810万台から40%伸び、24年7月以降中国の新車販売の半分以上はBEVとPHEVになった。
欧州では、EVへの補助金廃止の影響を受けたドイツで23年のEVの販売台数70万台は24年に57万台まで落ち込んだ。フランスでも補助金の縮小があり、24年の販売台数は23年から2万台減の45万台に留まったが、欧州連合(EU)27カ国の内14カ国では市場は成長した。
EUではBEVの新車販売に占めるシェアは13.6%、PHEVのシェアは7.1%になった。5台に1台はEVだ。英国でもEVのシェアは23年の24%から伸び30%に近づいた。
米国の24年のBEVとPHEVの販売台数は、それぞれ120万台、32万台となり、新車販売のEVのシェアは、10%になった。EVの販売シェアは、22年7.4%、23年9.5%だったので、シェアは伸びたが、成長は鈍化している。
BEVの国別の販売を見ると、欧州の主要国と日本市場では販売は横ばいであるものの(図-2)、中国に加え中南米、東南アジアの新興国でも販売が伸びている。
タイ、インドネシア、ブラジルなどの販売が伸びている途上国市場では中国製EVが、販売の主体になっている。

