2025年12月5日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年7月17日

 ヴァンス副大統領は6月24日、「トランプ・ドクトリン」として、①米国の利益を明確に定義する、②その利益に到達するために積極的に交渉する、③必要であれば圧倒的な力を行使することを挙げたが、これらは当たり前のことであり、ドクトリンと銘打つほどの考え方ではない。問題はどのような時に③の力の行使を行うかである。

 今回のトランプによるイラン攻撃は、いくつかの条件が重なった事案について軍事介入を決断したものと考えられる。第一は短期でのオペレーションで済ますことができることであり、第二は勝者の側に立つことができることであり、第三は世界の耳目を集め、喝采を得ることができることであり、第四は国内の支持層の中に軍事介入を強く求める勢力があることである。

 今回、これらの条件が重なった事案について軍事介入を行ったからといって、トランプ政権はそうした条件がそろわなければ軍事介入は行わないと結論づけることはできない。しかし、今回も、相当程度、躊躇した上で軍事介入を決断したことから考えれば、こうした条件がそろわない場合、トランプ政権における軍事介入のハードルはかなり高そうである。

東アジアの事情とは異なる

 今回の中東の事案においては、攻撃の先手をとったのはイスラエルの側であった。イスラエルは優勢に戦闘を運び、米国はそれに乗じて軍事介入を行った。ところが、東アジアの安全保障環境を想定してみれば、台湾海峡有事にしても、朝鮮半島有事にしても、想定されているシナリオで攻撃の先手を取るのは、現状変更勢力の中国ないし北朝鮮の方である。

 米軍に求められるのは、初手における相手の攻撃から盛り返す役割である。勝者の側に立つことが最初から保証されているわけではなく、短期のオペレーションで済むとは考えにくいものである。その意味で、東アジアにおける軍事介入は、相当程度、苦しい戦いとなることが予想される。

 そう考えると、「今回、米国として、離れた地域への軍事介入を実際に行った」と言って楽観的になるわけにはいかないのである。

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