2025年12月6日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年7月11日

 トランプ大統領は事前に米議会や国連安保理の承認を得ずにイランの核施設を爆撃した。これは米国の憲法秩序を揺るがすのみならず、第2次世界大戦後の世界の法秩序を変えかねない重大な違法行為だ。米議会と諸国は結束してトランプの違法行為に対処していかなければならないと、2025年6月23日付ニューヨーク・タイムズ紙で、ハサウェイ米イェール大学教授が警告している。

(Win McNamee /Rainer Puster/gettyimages・AP/アフロ)

 トランプ大統領の命令で米軍は6月22日の早朝、イランの3つの核施設を攻撃した。攻撃を事前に知っていた者はほとんどいない。トランプは法律に従って事前に議会や国連安保理の承認を得ることはしなかった。今回の違法な攻撃は、米国の大統領の武力行使の決定には国内的にも国際的にも有効な法的制約が全く欠如していることを露呈させた。

 もちろん大統領は軍の最高司令官だ。しかし、戦争開始にあたっては事前に議会の承認を得ることが義務付けられている。1973年戦争権限法もこれを変えていない。

 大統領が事前に議会の承認を得る必要がないのは、米国が攻撃され、国を守るために迅速に行動しなければならない場合だけだ。イランの場合はこれに該当しないどころか、全く逆だ。

 攻撃後の演説でトランプは、イランが「40 年も」米国を脅してきたと指摘した。つまり、トランプ大統領は憲法が明確に議会に与えている権限を私物化したのだ。

 また、大統領は、国連安保理の承認を得ることもしなかった。国連憲章は、加盟国は他国の「領土保全と政治的独立性に対する武力行使や武力行使の脅迫」を控えねばならないと定めている。一方的武力行使の禁止は戦後の法体制の基本原則だ。

 国連憲章の批准国は、安保理が戦争を承認するか、あるいは自国が「武力攻撃」された場合にのみ、他国に対して武力を行使できる。いかなる法制度も完璧ということはなく、国連憲章も例外でないが、それでも同憲章は世界がこれまで見たことのない平和で繁栄する時代の創出に役立ってきた。

 今やトランプは、「ブッシュ・ドクトリン」(米国は自国や他国への脅威があると認識した場合、先制攻撃が出来るという外交的立場)を全面的に採用している。これが03年の破滅的なイラク戦争の法的基盤で、大量破壊兵器(その後、存在しないことが判明)の行使を阻止するために必要だとして採用された。それでもブッシュ大統領は少なくとも戦争開始前に国連安保理に諮っており、米議会の承認も得ている。

 それ以降、ほとんどの大統領はブッシュ・ドクトリンと距離を置いてきたが、他方で、民主共和両党の大統領は国連憲章の下での自衛権を拡大解釈して中東のテロ組織に対して武力を行使し、また「9.11」後の議会の武力行使承認も拡大解釈して武力を行使してきた。トランプは国内国際を問わず全く法的根拠のない戦争を始めたことで、こうした拡大解釈をもはるかに越える一歩を踏み出したのだ。


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