住宅地での潜在需用を喚起したスシのデリバリー
承前。本稿第6回(『ラテン世界を席捲する“スシ”、寿司ネタの王様はやはり「あの食材」だった!地球の裏側にある日本食堂の経営戦略』)ではベネズエラ人17人が働く繁盛スシ・レストランを紹介した。今回はさらに支配人から聞いた経営方針・経営戦略を報告する。
プエルト・モントはチリ国内で有数の観光地であり港町でありチリ・サーモンの産地である。それゆえ平均所得が高い。市街地の背後の山腹に広がる住宅地で開業したことで家庭のスシへの潜在需要を呼び起こしたことが成功の原因と支配人は語った。
アルゼンチンもチリも中間層以上の人々のフード・デリバリー需用は筆者の想像以上に高かった。午前中から深夜まで配達員がバイクや自転車で町中を走り回っている。東京の郊外の住宅地よりもかなり頻繁に配達員を見かける。
そしてプエルト・モントのわずか2キロメートル四方の中心街に40軒近いスシ・バー、スシ・レストランが乱立しているが住宅地にはメイ・スシだけである。
さらに支配人は品質向上と衛生管理を従業員に徹底させてきたと胸を張った。社会と経済が破綻して生活苦に喘ぐベネズエラの故郷から来た若者はこのメイ・スシ以外に正規に合法的に働く場所がない。それゆえ彼らも支配人の下で一致団結して働いてきたのであろう。
“特別な日”にはスシ盛り合わせ
チリ人のランチタイムは通常午後2時から3時くらいに開始となる。やはりスペインの生活習慣を踏襲しているのだ。メイ・スシを訪問したのは11時半頃であるが電話がひっきりなしに鳴って女子スタッフが注文を受けている。
かたや外で待っていたフード・デリバリーの配達員にスタッフが出来上がった料理を渡している。大きな透明のビニール袋に包まれたスシ桶に海苔巻きと押し寿司が華やかに並んでいる。木製の舟型の器に入った盛り合わせもある。休日に家族が集まる誕生日祝いなど特別の日の“祝い膳”なのだろうか。
スタッフの創意工夫に溢れた“盛り合わせ”は豪華な見栄えである。これも商売繁盛の原因であろう。スシに見栄えという付加価値をつけることでメイ・スシは差別化を図っているのだ。
地元民に愛される丘の上の日本食堂
3月8日12時過ぎ。住宅街が広がる坂道を上った丘の上の辺鄙な場所にポツンとある大きな一軒家に“日の丸”が翻っていた。庭に日除けで覆ったテーブル席が4つあり、暖簾をくぐって建物の中に入ると8卓のテーブル席。内外ともに日本趣味の飾り、置物、絵画で溢れている。オーナーは相当な日本マニアで時間をかけて買い集めてきたものと思われた。
まだ南米の食習慣のランチタイムにはかなり早い。庭のテーブルでは3人の男女がお茶を飲みながらメニューを見て注文を検討中であった。小皿に漬物のような“お通し”が出ていた。“お茶とお通し”とは日本食文化を忠実に再現しているようだ。
屋内のテーブルでは6人の男女が談笑していた。地元の友人であり土曜日の午後の団欒を楽しんでいるという風情だ。ちょうど料理が運ばれてきた。失礼して各自の料理をチェックするとかつ丼、天丼、チャーシュー麺、肉うどん、牛丼であった。外見上の料理のレベルは日本の料理好きの主婦と同等の出来栄えだ。
残念ながらオーナーは不在でシェフは忙しく会えなかったがレジ係り女子によるとシェフは地元出身の30歳くらいのチリ人らしい。彼女によると店ではランチ・ディナーを提供しており客の入りは上々らしい。また丘の下の住宅街からのフード・デリバリーの注文も多いという。筆者が訪問した時も2台の配達員のバイクが停まっていた。
スシはどこまで進化するのか、“揚げスシ”まであるラテン・スシ文化
3月9日。プエルト・モントの最大のショッピング・モール。大手スーパーマーケットで買い物をしていた。出口近くのガラス・ケースにスシ・ロール(海苔巻き)が並んでいた。スーパーマーケットが業者に貸しているスペースで食品製造事業者がスシを専門に販売している。海苔巻き1本が500~600円であるが物価の高いプエルト・モントでは地元民にはお買い得感があるのか次々に売れてゆく。
売子に聞くとこの食品製造会社は市内の各スーパーマーケット、バスターミナル、アーケード街などに売り場を設けている。さらにホテル、パン屋、八百屋などに卸しているという。製造会社はいわば“スシ工場”であり早朝から午前10時頃まで操業しているらしい。そして出来た順からトラックで配送するという。
サンチアゴ行きのバスを予約するためバスターミナルに行くと食品製造会社の屋台の売場があった。さらにバスターミナルを歩いてゆくとSushi Frittaなる屋台が。英語ならFried Sushi,つまり“揚げスシ”である。巻きすに酢飯を平らに盛ってから海苔敷いて具材を置いてから巻きすを使って巻いてからそのまま油で揚げる。最後に包丁で輪切りにして完成という制作工程が写真入りで説明されていた。売子に聞くと午前中に売り切れるほど人気なんだとか。
