2025年7月16日(水)

古希バックパッカー海外放浪記

2025年7月6日

(2025.2.9~5.9 89日間 総費用66万7000円〈航空券含む〉)

チリ南端の小さな港町プエルト・ナタレス

 2月27日。フィヨルドの入り江の小さな港町プエルト・ナタレスは人口2万人。チリ・パタゴニアのパイネ国立公園を背後に抱える観光拠点である。アルゼンチン・パタゴニアのエル・カラファテから夜行バスで一昼夜、午後3時頃プエルト・ナタレスの町外れのバスターミナルに到着。

 バスターミナルからウルチマ・エスペランサ湾に向かって坂道を歩いていくと十数分でプエルト・ナタレスの中心街のホステルに着いた。キッチンの設備を確認してから数日間の自炊用食材とワインを仕入れるためにスーパーマーケットに向かった。

 スーパーへは近道をしたのでやや薄暗い寂しい通りを歩いていたら突然賑やかな漢字混じりの看板が見えた。“夢”という屋号の日本食堂らしい。“フュージョン系日本料理”(Cosina Fusion Japonesa)とある。ローマ字で“ニギリ、テンプラ、カラアゲ、トーフ、サケ(酒)、ソジュ(韓国語で焼酎)、ドンブリ、カツドン、スシ、ラーメン、サシミ、オニギリ”と日本食のオールスターを網羅している。

 中国人観光客の客寄せのためであろう中国語で生魚片(さしみ)、寿司などと中国語簡体字表記もある。中国人観光客はこの小さな港町まで押し寄せている。翌日町を散歩したらメインストリートは中国人観光客の群れで騒然としていた。大型観光バスが三台公園脇に停車していた。バスのフロントガラス内側に「歓迎 上海〇〇団ご一行様、歓迎成都◎◎団ご一行様」などと書かれた紙が貼ってあった。

店内は欧米系観光客、地元民、韓国若者グループで満員御礼状態

スシ&東洋系フュージョン料理『夢』の外観。非常にコンパクトな造作である

 後学のため“夢”の店内に入ると、夕食時であり5卓のテーブル席は満席。カウンター席も一杯。厨房からチャーシュー麺が運ばれてきた。叉焼、メンマ、ネギ、海苔がきれいに配置されていた。外見上は日本のやる気のない大衆食堂よりも美味しそうだったが味はどうなのか。

 観光客相手の店だろうと外見から想像したが地元民も一組いた。欧米系観光客が目立ったが窓際のテーブルで東洋系若者グループがビールを飲みながら料理を待っていた。韓国の女子大学生4人と男子学生1人。男子学生は彼女らとプエルト・ナタレスの町で偶然出会ったという。

 女子学生は全員お洒落な装いである。物価が高いアルゼンチン・チリでもパタゴニアはさらに高く外食してビールを飲めば少なくとも1人当たり5000円は下らない。年金生活者の筆者はホステルでの自炊に徹して3カ月の旅行中一度も外食しなかったほどである。韓国の1人当たりGDPは日本を追い越し更に韓国通貨ウオンは日本円より対ドルレートで優勢である。韓国の富裕層の女子大生の卒業旅行なのであろうが改めて日本経済の凋落ぶりに侘しさを感じた。

日本食堂のシェフはサンチアゴ在住のチリ人、夏場の出稼ぎ調理人

 厨房からチェフを呼んでもらった。シェフは40台後半のサンチアゴ在住のチリ人。サンチアゴの“ペルー料理&東洋系フュージョン料理”レストランで長年働いてスシ、ラーメン等を習ったという。サンチアゴの店のシェフはペルー人であり彼はペルーの首都リマの日本レストランで日系人シェフから日本料理を習った。つまり日系人→ペルー人→チリ人という師弟関係で日本料理が南米最南端まで伝来したのだ。

 チリ人シェフの家族はサンチアゴに住んでおり夏場の観光シーズンだけシェフは単身でプエルト・ナタレスに出稼ぎに来る。ちなみにパタゴニアの観光地のレストラン、ホテル、旅行代理店、バス会社などはオフシーズンとなる4月下旬から9月まで休業するところが多い。安いホステルにはシーズン中だけ長逗留している出稼ぎ人が少なくない。

 この店の経営は夏場に観光客相手に稼ぐことで成り立っている。初期投資を抑えるため店構えは一般のレストランに比べ極端に狭い。シェフ、調理手伝い、フロア担当兼レジ係りの最少人数の3人でディナータイムだけで1日2回転を目標にして営業している。地元チリ人の夕食時間はスペインの食習慣を踏襲して8時~9時開始が一般的だ。観光客は6時~7時開始が普通なので2回転が可能なのだ。

デリバリーで昼夜2回稼ぐスシ・バーはファースト・フード中心

ファースト・フード中心の『アジア人』の外観

 2月28日。プエルト・ナタレスのメインストリートの端に“アジア人”(Asiatico)というレストランがあった。看板にはスシとセビーチェが並んでいた。セビーチェは代表的ペルー料理で生の魚介類のマリネである。“アルゼンチン・チリでの見聞から判断すると少なくとも両国では“スシ”は海苔巻き(現地ではテマキとも表記される。いわゆる巻き物)を意味している。

「メニューは他にフライド・ポテト(papas fritas)、ハンバーガー(hamburguesa)」など、ファースト・フードでありメニューの種類は少ない。いずれにせよスシが看板メニューらしい。

 通りがかりに店を見るとランチタイム、ディナータイムともに店の内外に客の姿が見える。店内は広いが4卓しかテーブルは置いていない。代わりにテイクアウトの料理の順番待ちをする客のためのベンチが置いてある。レジ係りの女子に聞くとデリバリーとテイクアウトが営業の中心のようだ。店の前には常にバイクや自転車に乗ったフード・デリバリーの青年がたむろしている。注文した料理が出来上がるのを待っているのだ。テーブル席はビールを飲みながらワイワイと気軽に飲食する地元若者グループがメインらしい。

 ちなみにグーグルマップで数キロメートル四方のプエルト・ナタレス市街地にスシ、ジャパニーズ・レストランで検索したら6軒もあった。


新着記事

»もっと見る