2025年12月6日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年7月14日

 欧州で長く遅れていたこのような明確な戦略的思考はその通りだ。しかし、サミットで欠けていたのは、ロシアが暴力的な攻撃の停止を拒否する中で、トランプ氏が欧州によるウクライナへの武器支援を助ける用意があるかどうかの議論だ。大統領によるイラン攻撃は抑止を強化したが、ウクライナに関する決断は、その次のステップだ。

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「5%合意」の3つの課題

 6月24日~25日ハーグで行われたNATO首脳会合は、現在の2%を大幅に上回るGDPの5%を防衛に支出する(内1.5%は防衛関連経費)という歴史的合意を採択して終了した。欧州の防衛支出増額を長きにわたり求めてきた歴代米国大統領、特にトランプ大統領にとっては、歴史に残る偉業達成だ。

 ただし、残された問題は山積している。この論説は5%合意達成とその実施に向けたルッテ事務総長の決意という前向きな点を強調し、ウクライナ支援への米国の協力の継続に関する議論の欠如を末尾で指摘するのみだが、サミット開催前の23日に掲載されたフィナンシャル・タイムズ(FT)紙の社説は、その問題を端的に指摘している。

 FTの指摘の第一は、米国が引き続き欧州防衛に必須な協力を継続するかどうかだ。この首脳会合で首脳は、今後の戦闘計画と能力目標を採択するが、防衛費増額が実際の戦闘能力に反映されるのには時間がかかる。米国が引き、欧州が前面に出るためには、一定の移行時期が必要なのだ。

 その間は、米国は引き続き宇宙からのインテリジェンス情報、偵察とターゲティング(攻撃目標補足)、空輸と防空という必須能力において欧州を支援する必要があるが、その点についての米国のコミットメントは不在だ。5%実現の喜びで、この重要な点について米国の思いが至っていない可能性は大いにあるだろう。

 第二は、共同防衛へのコミットメントの信頼性だ。トランプ大統領自身のみならず政権関係者により繰り返された発言により、米国のコミットメントに対する信頼性は大いに傷ついている。実際、米国のコミットメントは、防衛費増額のみならず、貿易や、場合によってはMAGA(米国を再び偉大に)のイデオロギー承認にもかかっている(2月のミュンヘン安保会議の際のバンス発言を想起)というのが欧州諸国の認識だ。

 第三は、ロシアが欧州、ひいては米国の安全に脅威をもたらしているとの認識の欠如。米国がウクライナ戦争停戦のためにロシアに圧力をかけない限りは、この認識は消えない。


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