米国のトランプ大統領による情報機関の私物化が目立ってきている。米国の国家安全保障問題に携わる当事者や関係者の間で「国益に直接関わる政策決定を誤り、重大な外交上の惨事にもつながりかねない」として懸念の声が上がっている。
すきま風が吹き始めたある証言
米上院情報特別委員会は去る6月26日、米軍によるイラン核施設爆撃の評価について、政府当局者を招き、緊急に秘密聴聞会を開いた。招かれたのは、直接作戦を指揮した統合参謀本部議長のほか、中央情報局(CIA)長官、国務、国防両長官の3人だけだった。
CIAはじめあらゆる米国の情報機関を統括するトゥルシー・ギャバード国家情報長官はこの国家的重大事の説明の場に最後まで姿を見せなかった。ホワイトハウスの判断で直前に出席リストから外されたとされる。
その理由について、ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポストなど主要紙、4大TV局は聴聞会終了後、一斉に「大統領がギャバード氏の情報判断、見解を敬遠していたからだ」などと報じた。
国家情報長官は、CIAのほか、国防総省傘下の国防情報局(DIA)、盗聴などを専門とする国家安全保障局(NSA)、連邦捜査局(FBI)など米国が国内外に張り巡らすあらゆる情報機関を統括する最高責任者であり、トランプ氏は大統領に返り咲いた際に、2024年大統領選中に民主党から共和党に鞍替えし、熱心なトランプ支持者として選挙活動に携わったギャバード前下院議員を長官に抜擢起用した。
そのギャバード氏と大統領との間にすきま風が吹き始めるきっかけとなったのが、去る3月、ギャバード長官が行った議会証言だった。
上院情報特別委員会秘密聴聞会に出席した同長官は、イランに関する米国の全情報機関による情報分析結果として「イランは本格的核兵器開発には乗り出していない」「最高指導者ハメネイ師は核兵器計画をいまだ正式承認していない」などと証言した。
ところがその後、6月に入り、ギャバード長官の一部発言内容が米マスコミで報じられ、コメントを求められたトランプ氏がいきり立った。「わが国の秘密情報コミュニティーは間違っている」「彼女の発言も的外れだ」などと反論した。
大統領は当時、米情報機関ではなく、「イラン核開発にすでに着手」とのイスラエル側の情報を前提にイラン国内の核施設爆撃を検討中とみられている時期だっただけに、ギャバード発言は大統領の神経を逆なでしたも同然だった。
結局、大統領は去る6月21夜、米軍機によるイラン核施設3カ所の空爆に踏み切ったことを発表するとともに「核施設は完全に破壊された」ことも明らかにした。
