二つに割れるイラン攻撃への評価
ところが、その数日後、DIAが「初期の爆撃作戦評価」として「かなりの被害を与えたが、核施設の大部分はほとんど無傷のまま残っている。再処理施設などは数カ月で修復可能」との情報分析を行ったことが報道され、大統領自身の「完全破壊」説との落差が表面化、米マスコミで空爆作戦そのものに対する評価も分かれるに至った。
この結果、①イランはすでに核開発に踏み切っており、②空爆作戦の「大成功」で施設が完全破壊された――とする大統領見解と、このいずれとも距離を置いた情報機関の分析との間のギャップが露呈した格好となり、ホワイトハウスとして苦しい立場に追い込まれた。
攻撃作戦終了直後に開催された上院秘密聴聞会にギャバード氏が姿を見せず、秘密情報機関全体を代表してジョン・ラトクリフCIA長官が証言した背景には、上記のような背景があった。
ラトクリフ長官はトランプ氏の発言に沿う形で「イランの核施設は米軍爆撃により深刻なダメージを受けた」との趣旨の声明文を読み上げた。ただ、「完全破壊」との表現は証言最後まで避けた。
このためイラン情勢をめぐっては最近に至るまで、米マスコミの間でも、問題の核施設の現状めぐり混乱した情報が飛び交っている。
しかし、トランプ氏が米国自身の最高情報機関の分析や存在そのものに不信感を示したのは、今回が初めてではない。
自国のインテリジェンスよりプーチンを「支持」
前回大統領在任中の2020年当初、米情報機関や医療関係当局が中国からの新型コロナ感染拡大の危険について警鐘を鳴らし始めていたにもかかわらず、大統領はその脅威を無視、軽視し続け、その後も対応に遅れ、甚大な被害拡大を招く結果となった。
さらに際立ったのが、ロシアがプーチン大統領直接指示の下、米大統領選への介入工作に乗り出しているとの米国情報機関の確度の高い情報についても、米現職大統領として無視し続けたことだった。
去る18年7月、フィンランドの首都ヘルシンキで行われた米露首脳会談終了後の共同記者会見の場で、トランプ氏はプーチン大統領自身が介入指示を否定していることを理由に、「介入したとする米国インテリジェンスの指摘は間違いだ。自分はプーチン氏の主張を信じる」と言い切ったことから、米情報機関当局、米議会情報委員会の間でハチの巣をつつくような騒ぎなった。
実際、自国の高度インテリジェンスより“敵国”指導者の主張を重視する姿勢を世界のマスコミが見守る中で明確に示したのは米国大統領としてトランプ氏が史上初めてであり、前代未聞の“珍事”とも言えた。
そもそも、途上国や独裁国家はともかく、先進民主主義国家においては、国の最高情報機関は時の政権から独立した組織として存在し、諸外国の情勢や政治指導者の言動などについて客観的立場から情報収集・分析を行うのが常道とされてきた。
このため、情報機関トップや幹部たちは政権が交代しても一定期間の任務を全うするのが通例となって来た。
ところが、トランプ大統領の場合は、とくに2期目が去る1月にスタートして以来、インテリジェンス分野の最高組織である国家情報庁、CIA,各種スパイ衛星、盗聴装置などを管理する国家安全保障庁(NSA)などのトップを「バイデン前民主党政権寄りだ」として、いずれも任期途中で入れ替えてしまった。
