そして自分の主張や考えに対する同調者たちで側近を固めた。同時に、自国の情報機関そのものについても、軽視する姿勢が目立った。
こうした中、あらたにCIA長官に就任したばかりのラトクリフ氏はあろうことか、今月に入り、トランプ氏が前回当選した16年大統領選へのロシア介入問題に関する“再評価”報告書をスタッフに作成させ、一部公開するとともに、当時、米国全情報機関の総合的判断として「プーチン大統領の直接指示によりロシア機関が米大統領選に関与した」との結論を下したことを「評価は走りすぎだった」と異例の軌道修正をした。
トランプ氏はかねてから、自らが当選を果たした大統領選挙におけるロシアの介入を否定してきているだけに、今回、ラトクリフ長官による異例の措置は明らかに、トランプ大統領におもねた“椿事”というほかない。
この結果、情報専門家の間では、トランプ政権による対外政策立案が、はたして今後も国際情勢の正確かつ客観的分析に基づいて行われるのかどうかについて、懸念と不安視する声が上がっている。
過去の〝失敗〟に類似するトランプ政権
この問題について、定評ある国際関係評論誌「Foreign Affairs」は去る7月2日付けで「米国インテリジェンスを破壊しつつあるトランプ(Trump Is Breaking American Intelligence)」と題するタイムリーな警告論文を掲載した。
著者は、デービッド・ジョーイ英国立アカデミー教授(インテリジェンス・安全保障担当)、マイケル・V・ヘイデン元NSAおよびCIA長官の二人。いずれも秘密情報活動問題の権威、専門家として知られる。
両氏は論文冒頭で、プーチン大統領が22年にウクライナ侵攻作戦に踏み切る際に、ロシアの情報機関が当初、懐疑的であったにもかかわらず、最後は勝利を確信する大統領の意に沿った楽観的展望に沿った情報を作成し、提出せざるを得なかった事例を紹介した上で、対照的に米国については一般論として、「世界が羨望するインテリジェンス・コミュニティに恵まれている」と高い評価を下した。
しかし、トランプ政権だけは例外であり、「インテリジェンスが間違いを犯しやすい独裁国家のような病理状況が生まれつつある」として、その危険性について過去の具体的ケースを例に挙げ、警告を発している。
それによると、米国が過去に、情報機関が時の政権におもねる情報分析を行った結果として深刻な国際危機を招いた代表的例がいくつかある。
ベトナム戦争最中の60年代後半、和平工作の行き詰りに直面していたジョンソン大統領は、局面打開の方策としてDIA勧告に基づき北爆強化による戦争エスカレーションに踏み切った。
当時、CIAはエスカレーションに悲観的情報分析結果をホワイトハウスに提出していたが、大統領の意向を反映した「戦線拡大により早期戦争終結が可能」とのDIA情報が重視され、結果的に米国がその後戦争泥沼化に引きずり込まれることになった。
01年9月11日、国際テロ組織「アルカイダ」が民間旅客機4機をハイジャック、そのままニューヨークの世界貿易センタービルとワシントン郊外の国防総省ビルに激突させ、全旅客含め2977人の犠牲者を出す大惨事が発生した。
