2024年11月22日(金)

研究と本とわたし

2014年5月9日

 フィクションはあまり読まないのですが、例外はあります。まず、夏目漱石の『吾輩は猫である』(岩波文庫)。この本は冗談も真面目な話もいろいろ出てきますが、基本は人間関係を説いていますよね。もう一冊が『東海道中膝栗毛』。こちらは弥次さん喜多さん二人のやりとりに、そこはかとないユーモアや英国人が持つウィットに通じるものがある。これも人間のおもしろさです。

 やはり人間社会に生きているのですから、一にも二にも人間ですよ。それで最近はヒューマンネットワークの構築に力を注いで、人材交流の促進を手がけたりしています。

――先ほどお話の出たYSFHについては、今年3月に刊行された『ほんものの思考力を育てる教室』(横浜市立サイエンスフロンティア高等学校著/菅聖子編、小社刊)に詳しいですが、この高校でこれからどのような生徒を育てていこうとしておられるのか教えてください。

和田氏:私は授業とは別に、放課後に『和田サロン』という形で、生徒たちとの自由なディスカッションの場を設けています。ここで伝えているのは大きく3つです。第1に今お話ししたような「高い視点と広い視野で全体と部分とを見ること」。第2に「解析力と洞察力を持つこと」。第3に「自分の頭で考えること」ということです。

 今の高校生はわれわれの時代と違って知識は豊富ですが、それをなかなか知恵に結び付けられない。しかし、サイエンスに限らず何か新しい創造をしていくためには、知識を自分なりに一つのシステムにまとめ上げる知恵が必要なのです。そういう知恵のある人―知恵者―、自分の頭で考えて行動できる人を育てていきたいと思っています。実際に今の生徒を見ていると、大いに希望が持てますね。

――これからが楽しみですね。今日はどうもありがとうございました。

和田昭允(わだ・あきよし)
(独)理化学研究所 研究顧問ゲノム科学総合研究組織(GSC)組織長。横浜市立横浜サイエンスフロンティア高校 常任スーパーアドバイザー。東京大学名誉教授、理学博士。東京大学理学部助手、ハーバード大学博士研究員、お茶の水女子大学助教授、東京大学教授、理化学研究所ゲノム科学総合研究センター所長などを歴任。また理化学研究所研究顧問ほか、多数の研究機関、大学の理事等を務める。2009年より横浜市立横浜サイエンスフロンティア高等学校スーパーアドバイザー。受賞多数。著書に『物理学は越境する―ゲノムへの道』(岩波書店)、『生命とは? 物質か!―サイエンスを知れば百考して危うからず』(オーム社)など。


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