知的財産を「宝の持ち腐れ」にしないためにできること
先ほど、知的財産権は、ただでマネされてしまうことを防ぐためにあるというような説明をしました。それは、間違いではありません。
知的財産権を取得することによって、自分の発明を他人が勝手に利用することを排除し、模倣を防止する効果があります。
しかし、せっかくのすばらしい技術を社会で広く使わないのはもったいないと思いませんか? この点、知的財産権は、他人に使用させる可能性も認められています。
『陸王*3』という小説をご存じですか? 役所広司主演で、ドラマ化もされました(2017年)。倒産しかかった老舗の足袋屋「こはぜ屋」が、マラソン用の足袋の開発に取り組み、再生していく物語です。
その中で、特許の問題が出てきます。
こはぜ屋がマラソン足袋を開発する中で、とくに問題となったのが靴底(ソール)の耐久性でした。それを克服するために目を付けたのが、繭を加工した新素材としての「シルクレイ」。ただ、これは、飯山という男が特許を持っています。こはぜ屋の四代目・宮沢は、特許使用を願い出るのですが──。
まず、知的財産権を有していれば、ライセンス契約を結ぶことができます。簡単にいうと、自分の持っている知的財産権を使いたいという相手と、使用料や使用の内容・範囲などについて交渉したうえで、使用を許可するのです。
また、その知的財産権を出発点として、自分自身が、他の会社と商品の共同開発をすることもできます。目標を同じくする者同士が協力すれば、新たなビジネスを展開するきっかけにもなるのです。『陸王』でも、宮澤と飯山の間で、そんなやり取りがあります。
知的財産権は、一般的な所有権と異なり、他人のものを使ってナンボ、あるいは自分のものを使われてナンボかもしれません。
*3 地方の零細企業が会社の存続をかけて勝負に挑む物語。池井戸潤『陸王』集英社
