2025年12月5日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年7月31日

 2025年7月9日付のフィナンシャル・タイムズ紙で、同紙のマーティン・ウルフが、トランプは米国の偉大さの要因の全てを攻撃している、独裁国家に向けてトランプは恐ろしい程の成果を上げていると強く警戒している。

(SeanPavonePhoto/Anna Moneymaker /gettyimages)

 トランプの登場により、米国独立宣言の理想の全てが危機に晒されている。20年大統領選の結果を覆そうとした彼は、その後も生き延び、24年に返り咲いた。トランプは最早歯止めから解き放たれている。彼の政治エネルギーは世界を変えつつある。

 国内では、現在、法の支配が攻撃されている。法律事務所に対する大統領令の発出や、重要ポストへの無資格の忠誠者の任命等である。

 最も不吉なのは、移民・関税執行局(ICE)の権限と予算の拡大であり、それはまるで秘密警察のようになっている。これと関連するのが、政府そのものへの攻撃だ。

 イーロン・マスクの「政府効率省」なるものは詐欺だった。目的は、効率ではなく、服従だった。公務員の独立性が破壊された。特に、米国際開発局(USAID)の医療プログラム等が壊された。

 トランプによる大統領令の乱用も問題だ。彼は今期既に168の大統領令を発出した。トランプは勅令によって統治している。それは独裁兆候の一つだ。

 さらに懸念されるのは、腐敗の正当化である。それは彼自身とその家族の行動に如実に表れている。外国腐敗行為防止法は、執行停止になった。もっと重大なのは、米国の卓越性の源泉である科学に対する戦争だ。

 最後に注目すべきは、「ワン・ビッグ・ビューティフル法」による財政政策だ。これは今後無期限にわたり、巨額の財政赤字をもたらす。それは、米経済の需給バランス維持のために恒常的な経常赤字を必要とすることになる。

 国際関係では、貿易戦争はまだ終わっていない。「解放の日」の関税に対する90日の猶予期間が終わるが、幾つかの国としか合意はできておらず、経済的な対外攻撃は続いている。それは戦後、米国自身が創設した国際制度に対する攻撃だ。

 同盟関係も損なわれている。米国のあらゆる国際的誓約が疑わしいものとなっている。国際貿易制度はグローバルな公共財だった。ドルを基軸とする通貨体制もそうだ。しかし、トランプの政策は、その安定性や信頼性を損なっている。

 トランプが行っていることのほとんど全てが、対中競争において米国を弱体化させるものだ。何よりも、言論の自由、民主主義、法の支配、世界に対する開かれた姿勢等、米国の中核的価値が存続して欲しい。


新着記事

»もっと見る