2025年12月9日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年7月31日

 しかしトランプは、これらの価値を国内外で弱めている。米国は盟友としての信頼性を失っている。そんな米国が、人口が4倍以上もある中国とどうやって対抗できるというのか。それは幻想でしかない。

 任期のわずか8分の1、半年間に、米国の成功を支えてきたあらゆる要素に対するトランプの戦争は大きく前進している。喜んでいるのは、MAGA(米国を再び偉大に)支持層とプーチン、習近平くらいだ。

 この計画の中で最も一貫性があるのは、米国を独裁国家に変える試みだ。それ以外の部分に一貫性はない。しかし、これまでの「成功」を考えると、このアメリカとその価値に対する反革命が失敗に終わると楽観視することは間違いだろう。トランプは恐ろしいほどの成果を上げている。

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トランプと付き合う難しさ

 ウルフのトランプに対する鋭い罪状書である。トランプは米国の偉大さ、成功のあらゆる要素を攻撃し、「米国のあらゆる国際的誓約が疑しいものとなっている」、米国政治は独裁化に向かっていると警告する。独裁に向けて、「トランプは恐ろしいほどの成果を上げている」と指摘する。全ての点について、ウルフに同意せざるを得ない。

 残念なことは、このトランプの行動に対する国内政治勢力、メディア、知識人等の抵抗が効果的に盛り上がらないことだ。それは、トランプ政治の攻撃力の強さなのだろう。

 しかし、その中でも、7月8日付ニューヨーク・タイムズ紙掲載の元財務長官サマーズによる先般成立した減税・歳出法に関する寄稿記事「この法律は、自分の国に対して私を恥ずかしくさせる」は目に付いた。トランプにブレーキを掛けるのは、結局、市場(6月はインフレが昂進)や米国の有権者、国際社会の批判でしかないのだろう。

 欧州連合(EU)ではトランプの関税攻勢に対し批判が高まっているようだ。目下の交渉不調の時のために、報復関税を準備中だ。関税合意が思う程進まないことに、トランプが苛立ちを覚えていることは容易に想像できる。

 そのような中、7月13日、トランプは日本が米国の自動車や農産物の購入に消極的だと改めて不満を示すとともに、「日本は急速に方針を変えつつある」と述べた。関税交渉についての石破茂首相の「国益をかけた戦いだ。なめられてたまるか」、「言うべきことは、たとえ同盟国であっても正々堂々言わなければならない」との応援演説発言等がトランプの耳に入っているのかもしれない。


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