2025年12月6日(土)

家庭医の日常

2025年8月3日

心房細動の人をどうやって見つけるか

 心房細動は、プライマリ・ケアの現場で最もよく認められる不整脈だ。

 2018年時点での日本人一般住民における健康診断の心電図検査のデータを分析した研究によると、心房細動の有病率(%)は、男性では30歳代0.06、40歳代0.23、50歳代0.99、60歳代2.97、70歳代5.61、80歳代8.10であり、女性では30歳代0.01、40歳代0.02、50歳代0.08、60歳代0.44、70歳代1.31、80歳代3.52だった。リスク要因として加齢と男性があることが明らかである。

 心房細動には他の不整脈には無い独特な合併症を起こすリスクがあるので、誰に心房細動があるかを知ることが重要となる。それは、心房が小刻みに震えて心臓のポンプ機能が低下すると、血液の流れがよどみ、血液のかたまり(血栓)ができやすくなる。その血栓が血液の流れに乗って行った先で血管を詰まらせる(塞栓症と呼ぶ)ことで、脳梗塞や全身臓器への障害を起こすリスクが高まるのだ。

 だから、適切な方法で心房細動を早期に発見して、血栓を予防することができれば良いのだが、これがなかなか難しい。

 複数の臨床研究を系統的に吟味した16年発表のコクラン・レビューの一つ が、65歳以上を対象に、臨床所見に基づいて心房細動を診断する通常の方法、体系的なスクリーニング(対象者全員に心電図検査を実施する)、そして機会を利用したスクリーニング(何らかの理由で来院した際に家庭医が脈を触診し、脈が不整の場合は心電図検査で確認する)を比較検討した。

 その結果、体系的なスクリーニングと機会を利用したスクリーニングはどちらも通常の方法より心房細動の検出率に優れていた。体系的なスクリーニングと機会を利用したスクリーニングの有効性に差は認められず特別な害もなかったが、機会を利用したスクリーニングにかかった費用は体系的なスクリーニングのわずか5分の1で、費用対効果に優れていた。

 今までも私は、65歳以上の高齢者の診療では、外来であれ在宅であれ、診察の度に必ず患者の両手首に触れて橈骨(とうこつ)動脈の脈拍が不整でないかの確認を繰り返している。K.Y.さんの不整脈を発見したのもその時だ。

 長年ルーチンの一部となったその診察は、かつて私の家庭医の指導医が「以前に不整脈がなくても、心房細動はある日突然起きるんだ」と教えてくれたことであるが、それが有益であることを示す臨床研究でのエビデンスを見いだせて、嬉しく思っている。

心電図によるスクリーニング

 日本では、体系的なスクリーニングにあたる心電図検査が健康審査に含まれている。ただ、心房細動の診断の難しさは、脈の不整が持続しないことがあることだ。心電図検査をした時にたまたま脈が正常であることもある。

 心電図を24時間記録できる小型の装置を使って日常生活を続けながら不整脈の有無や症状との関係を調べるホルター心電図と呼ばれる検査もあるが、たまたまその日には心房細動が起きなかったということもあるのだ。

 ただ、22年、米国予防医療専門委員会(US Preventive Services Task Force; USPSTF)の報告では、50歳以上の無症状の成人に対し、心電図検査、持続心電図モニター、または血圧測定装置を用いて心房細動のスクリーニングを行うことの有益性と害を評価するにはまだエビデンスが不十分であると結論付けている。

 対象年齢を広げていることの影響もあるかもしれないが、最近は、スマートフォンやスマートウォッチでも心房細動を見つける機能があり、若い人を中心に様々な理由から自分が心房細動になっていないかを調べるだろう。

 スマートフォンで感度94%、特異度96%、スマートウォッチで感度94%、特異度93%と、心房細動の検出にかなり診断精度が優れてきているというデータもあり、今後心房細動の人をどうやって見つけるかは大きく様変わりしていくだろう。

 大事なことは、心房細動があると見つかった人に、どうやって過剰医療(不必要な検査や治療をする)や過少医療(必要な検査や治療をしない)に陥らず適正な診療を保証するかだ。家庭医としてのトレーニングにも含まれる。


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