17年6月には「サイバーセキュリティ法」が施行され、第24条で「ネットワーク運営者はユーザーの実名登録を義務付ける」と規定。WeChat(微信)やWeibo(微博)、中国版TikTokのDouyin (抖音)などにSNS実名登録制度が適用されることとなった。
SNSの登録には実名登録済みのSIMの携帯電話番号と居民身分証の18桁の身分証番号(外国人の場合は、パスポート番号)が必要で、さらに送金やライブ配信を行う場合は、追加認証として身分証のアップロードが必要になる。実名登録していないSNSアカウントが発覚した場合は、中国政府は定期的に「未実名アカウント一掃キャンペーン」を行っており、アカウントが削除されるのだ。
光ファイバーなどの固定回線の契約も同様に身分証の提示が必要だが、違反があった場合はサービスプロバイダーに罰金が課される。サービスプロバイダーへは、身分証の提示だけでなく、顔認証を合わせて行うことが必須とされている。
今回の「国家ネットワーク身分認証公共サービス管理弁法」の施行はインターネット上の匿名性排除の集大成ともいえるもので、着々と築き上げてきた二重、三重に張り巡らせた匿名性排除制度の完成形とも取れるものだ。
言論統制に威力を発揮する社会信用システム
中国共産党がこれほどまでにインターネット上の匿名性を排除するのは「天安門」や「習近平」、「新疆ウイグル」などの単語がリアルタイムで削除されるか非表示にされる例を挙げるまでもなく、民衆の不都合な関心や政府への怒りがインターネット上で拡散され、統制が効かなくなることを怖れているからに他ならない。
最近では事後検閲では飽き足らず、投稿前にAIが投稿内容をスキャンして問題があれば投稿ボタンが押せないような仕組みが取られている。こうした事前検閲ともいえる仕組み以上に効果を発揮しているのが、中国の「社会信用システム」との連動だ。
「社会信用システム」とは「守信(信用ある者)には報酬を、失信(信用ないもの)には罰則を」という原則のもとに運用されている14年から本格導入された国家主導の包括的な制度だ。政府系の人民銀行信用情報システムやアリババ系の芝麻信用(Zhima Credit)といった民間企業が、個人の信用をスコアリングするのだ。
点数は、350から950点で採点され、年齢、学歴、職業、家族構成のどの基本情報が20%、犯罪歴、薬物使用、信号無視などの交通違反、訴訟記録、納税状況などの法的記録に基づくものが30%、ゴミのポイ捨てや割り込み、SNSでの違法投稿といった社会行動に関する項目が25%、ローンの返済や水道や電気といった公共料金の支払い遅延といった金融信用情報が25%の割合でスコアリングされる。Aの優良からDの失信に格付けされ、Dと評価された場合は、ブラックリスト(失信被執行人単名)入りとなり、SNSに名前が晒される(日本からの閲覧はできない)。
信用スコアが底得点になると公務員試験の受験ができない、鉄道や航空券の購入ができない、不動産購入やローンの申請ができない、子供が名門校に入学できないなどの制裁が科される。特に政治批判やNGワードを含む投稿をした場合は、警察に呼び出され「失信行為」と記録される。
河北省では、ネットで「病院の対応が遅い」と投稿しただけで信用情報がさげられた例がある。外国人の場合は、ビザの更新が不可能になる可能性もあるのだ。
