2025年12月5日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年8月20日

 7月22日の法案に対する内外の反応は素早くかつ広範であった。キーウでは連日大統領官邸周辺等に数千から1万人を超える市民がプラカードなどを掲げて反対の意思表示をし、首都のみならず地方都市でも反対のデモが起こった。EU、国際通貨基金(IMF)などの国際機関や主要7カ国(G7)、また多くのNGOなども強い懸念を表明し、ウクライナに対する支援の継続に黄信号がともることになった。

ゼレンスキーが失った信頼

 このような動きを受けてゼレンスキーは7月24日、実質的に汚職捜査機関等の独立性を回復する新法案を急遽議会に提出した。同新法案は、NABUとSAPO両機関も参加して作成され、両機関は新法案が「独立性を保証する」ものであるとの共同声明を発出している。G7も歓迎する旨を明らかにした。マイダン革命以来の改革の成果を骨抜きにするという最悪の事態は回避できたようだ。

 しかし、今回の一連の動きがゼレンスキー政権に対する内外の信頼を傷つけたことは間違いない。これは仮に新法によって汚職対策機関の独立性が回復したとしても、取り戻すには時間がかかるだろう。

 それどころか、今回の件を契機に、これまで大きく取り上げられることのなかったゼレンスキー政権の様々な問題が噴き出す可能性もある。ゼレンスキーは信頼回復に向けてこれまで以上に努力を傾けなければならない。

 他方、もう一つ重要なことは、今回、ウクライナにおいては例え戦争中であっても民衆による政府批判の活動が可能であることが示されたことである。今ウクライナは戒厳令下にあり、警察機関はこれらデモを排除することも可能であったが、実際現場にいた警官隊は何ら規制措置をとらなかった。

 ウクライナは戦争中であっても民主主義の基本的条件である表現の自由が守られていることを示したのであり、今起こっているロシアとの戦争の悲惨さを考えれば、これは高い称賛に値すると言って良いだろう。

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