ことの発端は2024年5月、韓国の脱北者団体が北朝鮮に向けて、金正恩体制を批判するビラなどを大型風船で散布したこと。北朝鮮は「対抗措置」として、「汚物風船」を韓国に向けて飛ばし始めた。すると尹錫悦政権は、2018年の板門店宣言以降中断していた対北放送を再開した(『「汚物風船」を散布した北朝鮮、韓国の「報復」で決めた中断、朝鮮半島を舞台にした心理戦のチキンレースの行方は?』)。北朝鮮がこれに対抗してノイズ放送などを開始したため、38度線は南北のプロパガンダ放送が鳴り響く極度の緊張状態に陥っていた。
そして、李在明大統領は就任からわずか1週間後の6月11日、北朝鮮に向けた放送を一方的に中止した。すると、北朝鮮の放送も途絶えた。だが、放送の中断と大型スピーカーの撤去は南北関係史そのものとも言え、これまで少なくとも6回にわたり中断・撤去などを繰り返している。
米韓連合演習で再び緊張関係に
8日のヘッドラインは、米韓両軍による連合演習「2025 UFS(Ulchi Freedom Shield/乙支自由の盾)」が8月18日から28日にかけて実施されることを伝えたもの。米韓両軍は、朝鮮半島の全面戦争を想定した連合演習を毎年2回実施しており、上半期の演習をFS(Ulchi Freedom Shield)、下半期の演習をUFSと呼称する。
結論的なことを先に述べると、前項で南北の放送合戦(心理戦)が中断し、38度線に平穏が訪れたかのように思われたが、2025 UFSの実施で南北関係の緊張の水位は再び高まるだろう。北朝鮮はこれまで、「世界で最も攻撃的で挑発的な侵略戦争演習」(2024UFS)などと強い調子で非難するとともに、弾道ミサイルの発射など対抗措置をとってきた。
特に今年は第2次世界大戦終結と朝鮮労働党創建の80周年にあたる重要な年で、北朝鮮は党と国家の正統性を内外に強くアピールしなければならない。さらには尹錫悦政権を否定する李在明政権で、UFSが従前どおり実施されることへの反発もあるだろう。演習期間から党創建記念日の10月10日にかけて、北朝鮮による弾道ミサイル発射など軍事行動が繰り返される可能性が高い。
改めて、2025 UFSに目を向けると、李在明政権の抑止的な姿勢を見ることもできる。連合演習の発表文書に「北朝鮮」の文字がなかったことについて、韓国メディアはこれを鄭東泳統一部長官によって「調整」されたものと報じている。
演習には、韓国軍約1万8000人と米軍(規模未公開)が参加し、指揮所演習(CPX)と野外機動演習(FTX)が行われ、CPXと連携した40件のFTXのうち、20件以上が猛暑のため9月に分散実施される。また、国連軍司令部創設75周年を機に、国連軍加盟国の参加も計画されている。
