戦争は「どのように進んだのか」
ここでは、戦争とジャーナリズムの関係を考えるとき、第一次世界大戦のノンフィクションである『八月の砲声』(バーバラ・W・タックマン、山室まりや訳・ちくま学芸文庫)が教科書となっている事実にまず触れておかなければならない。ピューリッツァー賞を1963年に受賞している。ノンフィクション作家のほとんどが読んでいる。
第一次世界大戦の発端は、1914年6月にオーストリア皇太子夫妻がサラエボで暗殺された事件である。ふたりを乗せた馬車が道を間違えて脇道に入ったときに、テロリストが待ち構えていた。
参戦国のうち、同盟国側がドイツ、オーストリア=ハンガリー二重帝国、オスマン帝国など。対する連合国側が、イギリス、フランス、ロシア、日英同盟によって日本が加わり、そしてアメリカが17年に参戦した。戦中にはロシア革命が起きる。
18年の終結によるヴェルサイユ条約によって、欧州の国家間の秩序は大きく変化した。これが、のちの第二次世界大戦の伏線となる。
ドイツとオーストリア=ハンガリー二重帝国、オスマン帝国が崩壊して、ポーランドやチェコ・スロヴァキアなど歴史のなかに眠っていた国々が現れる。
『八月の砲声』は、第一次世界大戦がなぜ起きたのかに焦点を当てるのではなく、どのように進行しいったのかを描き出している。各国の指導者が同盟や協商によって、目指していた思惑が判断ミスによって歯車が狂いはじめた。死者は兵士約1000万人にも及び、2000万人以上の負傷者がでたと推定されている。
戦争が「なぜ」起きたのかではなく、「どのように進んだのか」が、ジャーナリズムの焦点になった。そのなかで、指導者たちの行動と、戦争によって多大な戦禍を被った各国の国民たちに視点を置いていくのである。オーストリア皇太子夫妻の暗殺によって、第一次世界大戦が起きた――「なぜ」に応えるには不十分である。
最新の科学である「ネットワーク・サイエンス」理論によれば、さまざまな事象がネットワークとなってコアとなる結節点を作りながら、大きな結果を生んでいく。すなわち、なぜ地震が起きるのか、は複雑なネットワークによるものであり予測は困難である。『八月の砲声』の視点はそうした理論の先をいったものだともいえる。
