2025年12月5日(金)

田部康喜のTV読本

2025年8月20日

 『英国の闇 チャーチル 世界大戦を引き起こした男』(渡辺惣樹、ビジネス社)や、ルーズベルトの前任の大統領である、フーバーによる『裏切られた自由』(ジョージ・H・ナッシュ編集、渡辺惣樹)などが刊行されるようになった。

 『高精細スペシャル ヨーロッパ2077日の地獄』のなかでは、高精細化したために、ヒトラーが手の震えが止まらない様子が映し出されて筋委縮症が疑われるのと、カルテからおそらく麻薬を頻繁に打ち続けていた事実がわかった。「なぜ」のひとつだろうか。

戦争経験者が減る中でどう伝えるか

 昭和100年、敗戦80年の年を迎えて、メディアとくにテレビからは「戦争経験者が減っていく中で、教訓をどう残していくかが課題です」と、決め台詞のように流れている。

 事実に基づいた映像や戦争経験者の「語り部」の方々の証言は、貴重なものである。戦争史の専門家である戸髙一成氏が『NHK ACADEMIA』 (2023年8月16日)の再放送で伝えた、戦後12年間にわたって旧海軍の幹部たちが行った「海軍反省会」の膨大なテープレコーダーの記録なども注目される。放送ではほんの一部だったが、「特攻」に対して反対していた佐官クラスが上部の方針に流されていく様子などは教訓になるだろう。

 実話に基づいたドラマの役割もある――『戦後80年ドラマ 八月の声を運ぶ男』(NHK・8月13日)。長崎の放送局を退職した辻原保(本木雅弘)は、長崎と広島の被爆者の体験談を録音しながら全国を回っている。集めた証言は1000人も及ぶ。

実話に基づくドラマで戦争を伝える『戦後80年ドラマ 八月の声を運ぶ男』(NHKホームページより)

 広島の被爆者のひとりである九野和平(阿部サダヲ)の証言は衝撃的だった。姉とふたりだけ生き残り、病院の床に寝て弟の和平の介護をしてくれた姉は白血病で20歳で亡くなる。東大病院に移ってから、床を這ってあるくことから必死に歩けるまでになった。しかし、原爆の影響で複数の病にかかって生活保護で生きている。辻(本木)が調べると、九野(阿部)の両親と兄は戦後も生き残り、姉はいなかった。

 辻(本木)は、九野の録音は使えないが、こう想像した。彼が語った話の数々は、被爆地や病院で他の被爆者たちから聞いた事実を彼のなかで咀嚼したものではなかったかと。つまり、九野は辻と同じようなことをしていたのだ。

 漫画家のこうの史代原作のドラマ『夕凪の街 桜の国』(NHK、2018年)は、7月に再放送された。銭湯の女湯のなかで、ケロイドの人が多い風景が普通にみえる日常を描いて衝撃を受けた作品だった。

 同じくこうの史代原作のアニメ『この世界の片隅に』(2016年、片渕須直監督)もまた、再上映中である。日本のみならず、世界的にヒットして数々のアニメの映画賞を獲得している。

 広島市江波で育った浦野すずが、子どものころに一目だけ知り合った北條周作におとなになって、結婚を申し込まれて呉の北條家に嫁ぐ。戦争のなかで、米軍の時限爆弾によって右腕と姪を失い、姉は故郷の広島で被爆して死ぬ。しかし、銃後の女性として強く生きようとする。敗戦によって、憤りをぶつける。夫の周作と被爆地で死んだ母親にすがっている子どもを自宅に連れ帰って育てることにする。

 戦争に取り組むドラマや映画の脚本家も、漫画家もそしてアニメの監督もまた、ジャーナリズムの心を持っていると思う。

 
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