フィナンシャル・タイムズ紙は、「今回のタイとカンボジアの国境紛争は、タイの国軍とカンボジアのフン・セン元首相一族のそれぞれの思惑から激化し、トランプ大統領が関税で脅したので停戦したが、国境紛争を永続的に解決するためには東南アジア諸国連合(ASEAN)は行動しなければならず、この地域のステークホルダーである中国も傍観者ではなく、積極的に動くべきだ」とする、Sophal Earアリゾナ州立大学教授の論説‘The Thai-Cambodian clash is a systemic failure for the region’を掲載している。要旨は次の通り。
最近のタイとカンボジア軍事衝突の拡大は、100年以上続いた国境紛争を先が読めない危険な状態にエスカレートさせたが、今回の衝突の背景には両国内の政治不安とASEANの機能障害がある。今回の衝突の中心にはカンボジアのフン・セン一族とタイのタクシン一族がいる。
カンボジアの元首相で現上院議長のフン・セン氏が、ペートンターン・タイ首相(当時)との個人的な会話をリークした行為は、向こう見ずな行為だった。リークにより両国間の信頼を傷つけ、隣国の指導者に恥をかかせ、タイの保守派が虎視眈々と狙っていたタイ国内の国粋主義的な反発を引き起こした。
タイでは、事態は急速に動いた。ペートンターン首相の指導力の欠如とその後ろ盾のタクシン一族の政治力に不満を募らせていたタイ国軍は、今回の衝突を利用して支配を奪取した。フン・セン首相のリークは、都合の良い開戦の口実をタイ軍に与え、今回の衝突の結果は、国家の主権の問題だけでなく、タイ国内の政治権力闘争の問題にもなった。
カンボジア側が、貧弱な軍事力で衝突を選んだのは、フン・セン氏の動機が国防力の強化とか領土の保全だけではなく、国内の政治力の強化にあったことを示唆している。その結果として起きたことは、予想された通り破滅的だった。衝突は激化し、一般市民が亡くなり、両国間の国境紛争についての話し合いは崩壊した。
今回の衝突は、単にタイとカンボジアの関係を破壊したのみならず、加盟国間の平和を維持するための地域共同体であるASEANの失敗でもあった。他方、両国に対して支配的な経済的影響力を有する中国は、立場を取ることを避けた。中国は調停の音頭を取ることよりも域内の紛争に巻き込まれることを避けたのだった。
結局、関税を武器に米国が介入した。外交的な仲介よりもこの経済的圧力が両国に対して一時的な停戦を受け入れさせることになった。停戦は歓迎されるべきものだが脆弱だ。
