2025年7月16日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年6月26日

 2025年6月4日付Economist 誌は、中国はミャンマーの内戦のすべてのプレーヤーを相手に脅迫と懐柔によって糸を引き、覇権を実践しているという社説を掲げている。

2021年2月にクーデターで政権を奪取したビルマ軍と戦う武装グループの兵士たちが、ビルマ空軍が投下した500ポンド爆弾で破壊された廃墟の病院を歩いている。(Thierry Falise/gettyimages)

 ミャンマーは暴力的な自然状態に陥りつつある。200万を超える国民が飢餓に瀕し、麻薬取引、巨大詐欺、人身売買等、犯罪の影響が国境を越えて拡散している。ミャンマーで起きていることは人道上の惨事であるが、別の理由でも重要である。

 米国と欧州は、かつてこの国で有していた影響力を放棄した。その代わり、支配的な外部勢力となった中国の監視の下で地獄絵が展開している。ミャンマーにおけるそのシニシズムと無頓着は、価値とは無縁の外交政策を実地に提示するものである。

 ミャンマーは、1962年のクーデタの後、49年間の軍の支配を被った。2011年から 21年の間、軍は幾分かの権力を放棄し、アウン・サン・スーチーが政府の前面に立つことを認めた。21年に軍はクーデタで全権を掌握して以来、軍事政権は武装勢力、反体制派、盗賊との内戦という混乱を招いた。

 西側が関心を失うにつれ、中国はますます強力になった。影響力、カネ、銃がある者とは誰であれ取引をする。軍事政権とも、反体制派や武装勢力とも協力する。弾薬・武器の供給に対する影響力と支配力を使って、戦闘の在り様を決定している。

 中国の利益にはインド洋からの 2500 キロのエネルギー・パイプラインの保護が含まれる。中国にとって、このパイプラインはマラッカ海峡を迂回する別の供給ルートで、台湾を巡る戦争の際には不可欠となるかも知れない。中国は鉱物資源等へのアクセスを維持し、「一帯一路」のインフラを守り、中国市民を標的とした詐欺グループを取り締まり、ミャンマーから西側を締め出すことを欲している。 

 中国は巧みに立ち回り、皆を脅迫し懐柔して要求に応じさせる。ミャンマー経済は 2019 年以来 4 分の 1 縮小した。中国はミン・アウン・フラインに本年後半に偽りの選挙を行うよう圧力をかけている。そうなると、反体制派は正当性を欠いた手続きを妨害しようとし、激しい暴力の引き金となるかも知れない。


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