2025年12月6日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年8月29日

 もし、ASEANが引き続き然るべき存在であることを望むならば、明確に行動しなければならない。つまり、この危機を緩和させるだけではなく、長い間ふつふつと続いている紛争を永続的に解決するメカニズム作る必要がある。

 ASEANは、紛争の早期警戒メカニズムの強化と国境警備隊同士の信頼醸成措置を始めるべきである。そして、中国ももっと積極的な役割を果たすべきだ。

 中国が関わりたくないのは理解出来るが、しかし、中国が域内の責任のあるステークホルダーと見られたいのならば、最早、許されない。そして、米国は、太平洋地域での信頼できるパートナーを目指すのならば、ただ関税を振り回すのでは無く、ASEAN の外交努力を支援しなければならない。

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東南アジアはすでに中国の裏庭?

 上記の論説の筆者は、米国在住の元カンボジア難民との由だが、その主張には色々と考えさせられる点がある。第一に、「今回の衝突で中国は傍観者であったが、東南アジア地域のステークホルダーとして積極的な役割を果たすべき」と主張している点だ。

 長年、この地域はタイを中心に日本の産業の重要な集積地であり、本来であれば、日本企業の利益のために日本が仲介の労を取るべきなのだが、米国内では、既に東南アジアは中国の裏庭と見られているのかもしれない。確かにタイでは中国の電気自動車に勢いがある一方でスズキやスバルの自動車生産からの撤退等が伝えられているように、日本企業の退潮が顕著になりつつある。

 しかし、このまま日本が退いていき中国が後釜に座るというのでは、経済面のみならず安全保障面でも日本にとり大きな問題となろう。日本は経済を中心に政治や安全保障を含めた対東南アジア関係の再構築が必要ではないかと思われる。

 論説の筆者が、「米国は、太平洋地域での信頼できるパートナーを目指すのならば、ただ関税を振り回すのではなく、ASEAN の外交努力を支援しなければならない」と論じているのは正しい。問題は、トランプ政権は対中シフトと言われながら、同盟国に関税戦争を仕掛けて同盟関係を毀損しているのみならず、中国の影響が強まりつつある東南アジア地域を関税問題でさらに中国側に追いやっているように見えることだ。


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