中国、インドなどの途上国の電力需要は成長を続けている。一方、先進国の電力需要は、省エネ機器の利用が進んだこともあり、頭打ちだったが(図-3)、生成AIが電力需要の構造を大きく変えつつある。
利用が広がる生成AIを支えるのは、計算処理を担うデータセンターだ。これから先進国でも電力需要は増える。AIで世界をリードする米国のトランプ大統領は大統領令を発令し石炭増産を打ち出している。
「掘って掘って掘りまくれ」とトランプ大統領が鼓舞する化石燃料の増産に加え、安定的な電力供給の確保も狙いだ。
増える石炭火力と石炭生産量
石炭は、化石燃料の中でもっとも二酸化炭素の排出量が多く、温暖化対策を進める国際金融機関と持続可能な開発目標(SDGs)、ESG(環境・社会・企業統治)活動に熱心な機関投資家から目の敵にされてきた。
世界銀行、欧州投資銀行などの国際金融機関は、炭鉱、石炭火力発電所への融資から、欧米の機関投資家の多くは、石炭関連会社への投資からコロナ禍前に撤退した。
それでも、世界の石炭の消費・生産は増え続けている。中国、インドの生産増に加え、ロシアのウクライナ侵攻が引き起こしたエネルギー危機が、石炭への逆風を和らげた側面もある。
化石燃料価格は高騰した。中でも、ロシア産天然ガスの代替として需要が急増した燃料用一般炭価格は、史上最高値を付けるほど値上がりした。
価格上昇を見た一部機関投資家は、脱石炭を止め石炭への投資を再開した。要は、石炭は儲からないと思って撤退を宣言したものの、儲かるのだったら話は別という分かり易い本音の行動だ。
エネルギー危機は、エネルギー安全保障を再考する契機にもなった。自国あるいは同盟関係にある国の資源に依存する重要性が認識された。
世界の石炭火力の発電量のシェアは35%だが、世界最大の電力消費国で世界の発電量の約3分の1を持つ中国の石炭火力発電量は伸び続け、いま6割のシェアを持つ(図-4)。
中国、米国に次ぐ発電大国インドは発電量の約4分の3を石炭に依存し、やはり増え続けている(図-5)。この両国が伸び続ける電力需要を賄うため石炭火力発電設備を増やしていることが、世界の石炭消費量が増え続けている大きな理由だ。
国際エネルギー機関によると、昨年の世界の石炭消費量は約88億トン。23年比1.5%増。20年比では16%強伸びている。中国が世界の消費量の56%を占める。次いでインドが約16%を消費している。



