2025年12月6日(土)

World Energy Watch

2025年8月27日

AI競争を支える電力供給

 生成AIへの投資が止まらない。ノーベル経済学賞のポール・クルーグマン教授は、相互関税によりインフレ下の不況になる可能性がある米国で株価が好調なのは、AI投資が牽引しているからだと看破している。

 そのAI投資を支えるのは、安定的な電力供給だ。テスラの最高経営責任者(CEO)イーロン・マスクは、保有するAI企業xAI用にテネシー州メンフィスにデータセンターを建設した。ところが、十分な電力供給を受けることができず、35基のガスタービンの発電設備(合計発設備容量42万1000kW)を急遽設置する羽目になり、地元と大気汚染問題でもめている。

 地元も揉めることは分かっていても、電力供給を何とか手当しないとAIは使えないのだ。これから安定的な電力供給をどう手当てするかが、データセンターの建設予定の地域では課題になる。

 データセンターにより、2040年には米国の電力需要が今から50%以上増え、6兆kWhを超える予想もある。老朽化により米国では減少している石炭火力設備も戦力にしなければ、電力供給を確保できないかもしれない。

  米国では2000年代後半のシェール革命により生産が増え、価格が下がった天然ガスが電源構成をガラッと変えた。

 炭鉱から距離がある発電所への石炭輸送価格が高くなり、パイプラインで運ばれる天然ガスで代替されるケースが増えた。2000年代に発電量の50%あった石炭火力の昨年のシェアは15%まで落ちた(図-7)。

 しかし、炭鉱を持つ州は石炭火力を維持している。石炭火力の比率が高い州の電気料金が安い傾向にあり、競争力があるから依然石炭火力が維持されている面もある。最近では天然ガス価格の上昇もあり、石炭火力の発電量は下げ止まっている。

トランプ政権で石炭火力は復活するのか

 トランプ大統領は、石炭の生産を増やし、データセンター用電源としても活用せよと大統領令「米国の美しいクリーンな石炭産業を再活性化せよ」を4月8日に発令した。 6月には1億3000万ドルを閉鎖された炭鉱地域の復活支援に投入することも発表されている。

 トランプ大統領は1期目にも石炭復活を打ち出したが、市場の力を変えられなかった。政策でエネルギー市場を動かすことは難しい(【トランプ就任から100日】「掘って、掘って、掘りまくれ」の成果、政権のエネルギー政策を市場はどう評価しているか? )。

 しかし、電力需要が伸び悩んだ1期目と事情が異なり、電力供給が不足する時代になった。電力業界では、トランプ大統領の石炭政策に懐疑的な見方もあるが、古い設備が利益を生むとなれば話は別と考える事業者も出てきそうだ。

 既に、電力会社のジョージア・パワーは、30年までにアトランタ近郊のデータセンターでの需要を中心に、850万kWの設備容量の増設が必要と判断し、28年と35年に閉鎖予定だった2基の石炭火力発電所、合計400万kWを38年まで利用すると発表し、規制機関も了承した。

 脱石炭、脱炭素の先行きはますます不透明になってきた。依然としてエネルギー供給の8割以上を化石燃料に依存する世界が、脱炭素を実現するのは夢物語に見えるといえば言い過ぎだろうか。

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