2025年12月5日(金)

都市vs地方 

2025年8月29日

 彼らの研究では、こうしたある種の経済的つながりを基にした地域である通勤圏と、行政単位である郡の両方の地域単位を用いて分析し、以下のことを示した。まず、イノベーションは極めて空間的に集中しており、全国の特許数に占める各通勤圏のシェアを求めてみると、多い方から数えて5%までの通勤圏で6割以上の特許を生み出している状態が150年続いている。

 とはいえ、集中の程度はある程度は時代により変化しており、19世紀から1990年代までは一時期の停滞を挟んでイノベーションの空間的集中度合いは薄まってきたが、90年代からイノベーションの集中が急速に進んだため、今日の集中の様子は19世紀末に似ている。次に、過去にイノベーションの中心地であった場所は今もそうであることが多く、しかも、その多くがニューヨークやロサンゼルスのような大都市であった。

 1800年代後半から1900年代半ばまでは特にその傾向が顕著であったものの、近年その傾向が薄れ、新たな場所、特にシリコンバレーの台頭が顕著である。これは、製造業中心の産業構造が変化してIT産業の存在感が増してきたことの現れである。

 このように、イノベーションの主役となる産業は時代により大きく変わり、イノベーションの中心地も変化したものの、イノベーションの空間的集中は時代を超えて観察されてきたのである。

日本で顕著な首都圏への集中

 では日本のイノベーションの空間的集中の様子はどのようになっているであろうか。地域単位としてかなり粗いものではあるが、特許庁の特許行政年次報告書に都道府県別特許登録件数が報告されているので、それと人や企業の集中の様子を比べてみよう。

 図1は横軸に2020年の日本全体の就業者数に占める都道府県シェア(%)を、縦軸に23年の日本全体の特許登録件数に占める都道府県シェア(%)をとったものである。就業者数は総務省の国勢調査の数値を使用している。

 それぞれの点が都道府県の値で、図中に45度線を示している。この45度線よりも上側にある都道府県では、就業者のシェアよりも特許登録件数のシェアが上回っている。そうした都道府県には働く人よりもイノベーション活動の方が集中している、と解釈できる。

 この図をみると、東京都、大阪府、愛知県といった三大都市圏にイノベーションが集中しているようである。ただし、注意が必要なのは首都圏で、神奈川県や埼玉県、千葉県からは多くの就業者が東京へと通勤している。国勢調査が居住地ベースであるため、住まいは東京都でないものの、勤務地は東京都というケースが多いのである。


新着記事

»もっと見る