2025年12月5日(金)

都市vs地方 

2025年8月29日

 文部科学省が2025年6月、「令和7年版 科学技術・イノベーション白書」を公表した。その中で、まず、戦後から現在までを、1995年の科学技術基本法制定までとその後の30年に分け、日本における科学技術とイノベーション関係の政策的動きを総括している。

 その上で、近年の基礎研究力の低下をはじめとする課題を述べ、その解決に向けた取り組みの必要性について述べている。その背景には経済成長にはイノベーションが重要であるという基本認識があるが、このことは、国全体はもちろん、それぞれの地域の経済にも当てはまる。

(metamorworks/gettyimages)

 同じ時期に内閣府が公表した「経済財政運営と改革の基本方針2025(骨太の方針)」では、「稼ぐ力を高め、付加価値創出型の新しい地方経済の創生~地方イノベーション創生構想~」と称して、新たな事業や人材、技術を引き合わせるエコシステムを全国各地で作ることを掲げている。「地方発の代表的な産品である農林水産物・食品(日本産酒類を含む)の輸出額とインバウンドによる食関連消費額の合計3倍、スタートアップ企業など地域の課題解決や新しい産業の創出を通じて価値創造をしていこうとする企業がある市町村10割を目指す」とされた。

 理想としては、日本全国各地でイノベーションが活発になり、どの地域もまんべんなく成長できれば良いのであるが、実際には難しい。というのも、イノベーションは人口にもまして一部の地域に集中することが知られているからである。

 東京や大阪のような大都市への人口集中は、その意図せざるメリットである集積の経済によって生じるが、イノベーションについても集積の経済が生じることが知られており、研究開発に携わる人材が空間的に集中することで、暗黙の知識の共有や情報のスピルオーバーによりイノベーションが促進されることが指摘されている。すると、研究開発に携わる人が集まる場所にイノベーションも集中せざるを得ないのである。

アメリカのイノベーションの空間的偏在

 実際、アメリカについてイノベーションの長期にわたる空間的分布を分析した研究では、イノベーションの著しい空間的偏りが明らかにされた。アメリカのメリーランド大学のアンドリュー教授とカナダのカルガリー大学のウェイリー教授は、1836年から2016年まで、アメリカの過去150年間の特許情報を通勤圏および郡ごとに集計し、イノベーションの空間的分布の推移を特徴づけた。通勤圏とは、通勤パターンを基に行政単位を集計して作成された圏域で、名前の通り、多くの人がその範囲内に通勤しているような地域の単位である。


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