2025年12月26日(金)

Wedge REPORT

2025年9月12日

「自殺最多」「不登校」報道が与える誤解

 毎年のように報道される「9月1日は子どもの自殺が最多」という見出しは、確かに衝撃的だ。根拠としてよく引用されるのは、過去40年間の累積データを元にした「18歳以下の日別自殺者数」というグラフである。

出所:平成27年版自殺対策白書 写真を拡大

 これを見るとたしかに9月1日が約130人程度と読み取れ、突出して多いように見える。だが、4月中旬にも100人程度と読み取れるなど、他の日にも一定数の自殺が発生している。さらに、このデータは18歳以下という大きな枠組みで分類されており、校種別や学年別の詳細は不明である。

 国立国会図書館が提供するレファレンス協同データベースによれば、9月1日に自殺が多いのは中高生であり、小学生では11月30日が最多とされている。つまり、「9月1日だけが危険」という印象は正確ではなく、常に子どもたちの心の動きに敏感である必要があるということになる。

 加えて、こうした報道が模倣行動を誘発する可能性も指摘されている。いわゆる「ウェルテル効果」である。スマートフォンを持つ小学生も珍しくない現代において、「自殺が最多」というセンセーショナルな表現は慎重に扱うべきだろう。

 「9月1日問題」は不登校の増加とも関連づけられることが多い。あるオンライン学習企業の記事(「夏休み明けの不登校はなぜ起こる?文部科学省のデータとともに解説!」)では、文部科学省のデータを引用し、「夏休み明けに全く学校に行っていない、ほとんど行っていない児童生徒が約4割存在する」と記されていた。しかし、この表現は大きな誤解を生む可能性がある。

 引用元は2021年(令和3年)10月の「不登校児童生徒の実態把握に関する調査報告書」であり、対象は調査前年度(令和元年度)に不登校傾向にあった小6・中2の児童生徒とその保護者に限定されている。しかも往々にしてこのような調査への協力を得ることは非常に難しいため、母数はどうしても全体数よりは少なくなる。

 そのため一概に全体傾向を示すとは言えないが、筆者がAIを用いて推計したところ、夏休み明けに「ほとんど登校していない」児童生徒の割合は、小学生で約0.35%、中学生で約1.6%程度にとどまる。こうした誤解を招く情報発信は、現場の混乱を助長しかねない。


新着記事

»もっと見る