2025年12月5日(金)

コメと日本人

2025年9月27日

水代 私も消費者の立場として、コメが適正価格になり、生産者にきちんと還元され、農業を持続可能なものにしていくことは賛成です。渡邉さんの得意分野ですが、誰がどのような思いで生産したのか、ストーリーを伝えることはとても大切なことです。それは、消費者にとっても価格の納得感にもつながります。

 ただし、中小企業の飲食店経営者の立場になると、非常に難しいというのが本音です。コメだけではなく、鶏肉や油なども、この3~5年で倍になっています。

 それでも販売価格に転嫁できるかといえばできていません。「値上げはしたい。だけど、隣の店が値上げしていないので、うちもできない」となってしまうんです。

 痛い目にも遭いました。丸の内のお店でお弁当を60円値上げをしたところ、売上が、ガクンと落ちてしまいました。価格が3桁から4桁になるだけでこれだけ違うのかと痛感しました。

 渡邉さんと實取さんの「自然農法」は、いわば「ライフスタイル」を売っています。一方、私たちが売っているものは「ライフサイクル」なのです。「サイクル」には、それほどお金を出してもらえないというのが私の実感です。丸の内ですら、消費者は価格に対して非常にシビアなんです。

自然栽培で
稲作を行うということとは?

──實取さんは新規就農の実習生も受け入れていますが、基本的には一人で作業をされています。普段はどのような働き方なのですか?

實取 一番忙しいのは、田植えと稲刈りの時期です。別品種を植えているので、それぞれ1カ月くらい、率直に言って、朝4時から夜10時くらいまで、休みなく仕事をしています。夏場だと通常朝5時に起床し、子どもを6時発のスクールバスまで送迎し、そこから直接、田んぼに向かうことが多いですね。7時からは水回りの管理や除草作業などを行います。田んぼが市内に点在しているので、移動にも時間がかかります。

水代 都会のストレスフルな仕事に疲れたので、「田舎に行って農業をしたい」なんて声もよく聞きますが、現実は甘いものではないですね。

實取 もっと良い農機具を購入することができれば、作業効率は上がるはずです。直進アシスト付きの田植え機やコンバインも欲しいのですが、新しい乾燥機や保管施設の費用を考えると、億単位の投資になり、なかなか手が出せません。

 私の自宅近くにある山間地の棚田では、規模を拡大することはできません。それでも、上流域なので、農薬や生活排水の流入もなく、山から染み出してきた野川の水だけでおコメを育てることができます。特に、種もみの時期は、人間でいえば赤ちゃんみたいな状態の時なので、その時にきれいな水で育てられていると、食べる人にとってもいいおコメになるのかなと思っています。

夏場は両脚のポケットに凍らせたペットボトルを入れて作業するという實取さん

新着記事

»もっと見る