2025年12月5日(金)

コメと日本人

2025年9月27日

水代 私の専門のまちづくりも同じです。防災や住みやすさと、商業ビルの空室率を下げるなど経済的な効率性というのは一致しないことがよくあります。でも、そのバラバラの人たちと組み合わせることで、コミュニティーをつくっていく。そこで、出会った人同士が新しいものを生めば、価値が生まれる。やり方は違っていても、農業との共通点はあると感じますね。

渡邉さんが導入した「低温真空乾燥機」の前で語らう3人

一次産業が元気にならないと
地方も日本も良くならない

──私たちは「コメは安くて、いつでも食べられるのが当たり前」という感覚を持っています。どうすれば意識を変えていけるでしょうか。

實取 一次産業の現場にもっと多くの人たちに来てもらいたいですね。例えば、企業で働く皆さんに、研修などを機会に農業体験をしていただくことで、おコメがどのようにして作られているのかを知っていただければこれに勝る喜びはありません。

 加えて、ご理解いただきたいことがあります。それは「一次産業は有限の世界」だということです。先ほど大規模化の議論になりましたが、仮に大規模化しても、自然相手のおコメは年に1回しか作れません。どれだけ効率性を上げても、収穫量は限られます。付加価値をつけようと思っても上限がある。

 山があって、田畑があって、海までつながり、また山に自然の恵みが戻って来る──。この一連の流れの中にある一次産業は、社会全体のインフラを支える産業の一つであることに、もっと多くの方に気づいていただきたいですね。

 私たち農家ももう一歩踏み込んで農業の根幹部分を〝言語化〟していく必要があります。例えば、田んぼ。稲を作るためには水が必要で、水を使うために用水路の維持管理が必要ですが、その担い手がいなくなっています。大規模化するにもその用水路が必要です。数㌔・㍍の規模になる用水路を、これまでは共同体で管理してきました。菊池市には、加藤清正公が築いた用水路があって、先人たちがそのインフラを維持管理して現在までに繋いできました。菊池のかんがい用水群は「世界かんがい施設遺産」にも登録されています。私たちは、このレガシーを次の世代にどう繋いでいくのかを考えていく必要があります。

水代 その意味で、農業には「関わりしろ」がまだまだたくさんありますね。私たち、中小企業の経営者もマインドを変えていく必要があります。皆で値上げを怖がって、皆で苦しんでいる。国民も消費者としては安い物を求める一方で、従業員としては高い給料を望んでいますが、これは完全に矛盾しています。行き過ぎは禁物ですが、基本的に「給料も高く、物価も高く」というマインドが一番いいはずです。

渡邉 国の土台である一次産業が元気にならないと、地方や日本の将来が良くなるはずがありません。食べ物、特に主食のコメは日本人にとってなくてはならないものですが、インフレ傾向の中、コメだけが異常に注目されすぎています。私たちはこれらの背景に何があるのか関心を持つことが必要ですし、農業が持つ価値やありがたみをもっともっと知っていただきたいですね。

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Wedge 2025年10月号より
コメと日本人
コメと日本人

「令和の米騒動」─。米価高騰、コメ不足の原因は複数あるが、ここまで騒ぎが大きくなった背景には、稲作に対する、長年の国民の無関心もあるのではないか。稲作の未来を経済的に考えれば、スマート化、大規模化一択なのだろう。しかし、それによって地域の担い手や環境保全は誰が行ってゆくのかの議論は乏しい。「喉元過ぎれば熱さを忘れる」で、米価が下がれば関心をなくすのではなく、日本の稲作の未来をどうするのか、時間をかけて考え、耕していく必要がある。


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