熊本県菊池市で「自然派きくち村」を運営し、自然栽培(無農薬・肥料不使用)のコメや野菜などを販売する渡辺商店代表の渡邉義文さん(53歳)。同じく菊池市で、自然栽培で稲作をする實取耕房代表の實取義洋さん(45歳)。そして、東京・日本橋浜町、丸の内で飲食店を経営し、今年11月から丸の内界隈の飲食店向けに精米事業も開始した本誌連載「モノ語り。」の筆者であるグッドモーニングス社代表の水代優さん(47歳)。それぞれの立場から、これからの農業のあり方について語り合ってもらった。
編集部(以下、──)農家の「言い値」で作物を買い取り、それを「売り切る」のが渡邉さんの理念です。8月23日からは「早期米」の販売を始めたそうですね。
渡邉 天草で生産された自然栽培のコメです。5キロ・グラム7500円で、ネット販売を開始すると、3日で250袋が売れました。これまでにない勢いです。自然栽培のコメは「反収」(1反=10アールあたりの収穫量を表す)が低く、うちで販売するコメは一般よりも値段が高かったのですが、昨年の米価高騰によって、むしろ、割安になりました。2024年産は値上げをしなかったので、常連のお客様からは、「(買えなくなるので)値上げしてほしい」という声が上がったほどでした。
24年産は今年の1月までに3分の2を販売したので、その後、販売数量を抑えて、毎日、朝夕に5キロ・グラムを4パックずつ販売していましたが、1分も経たない間に売り切れてしまうという状況が続いています。
實取 私が生産したおコメは、自社サイトと「自然派きくち村」で販売していただいていますが、大半は国内外の寿司店、酒蔵に卸しています。急な値上げは先方に迷惑がかかると思い、24年産は、値上げを見送りました。ただ、燃料や電気代などのコストアップに加え、大雨の影響で畦の法面が崩れるトラブルもありました。修繕には数百万円の費用がかかります。
これらを加味して、25年産は値上げを検討しています。それでも、毎年値上げするのではなく、「この値段なら、今後5年据え置いても経営的に大丈夫」という価格を検討しています。取引先との信頼関係にもつながるからです。
渡邉 これまでコメは安すぎたんだと思います。平成初期の1990年頃は、1俵(60㌔・㌘)2万円を超す値段がついていました。それ以降下がり続け、ようやく30年前の水準に戻り、やっと農家が「やる気」を出せるという状況です。
昔は、1町(1ヘクタール)の田んぼを持っていたら〝大農家〟でしたが、今ではとても食べていけません。1町で6トンのコメがとれるとすると、これまでのように1俵1万5000円だと、売上は150万円。3万円台になってやっと300万円です。
水代 そこから2町、3町と田んぼを広げて行けば、1000万円プレーヤーになることも見えてきそうですね。
實取 ところが、売上の7割は諸経費で消えてしまうんです。そこに自分の人件費を入れると、時給数十円という世界です。私が13年前に畜産から稲作に転業する際も、周囲から「お前の人生を台なしにさせるわけにはいかないから田んぼは貸さない」と強く反対されました。おコメ5キロ・グラムは、茶碗にすると72杯分です。4000円で割れば、1杯60円程度です。これはそれほど高くないというのが私たちの感覚です。
