特に「冬」の過ごし方は重要である。本業の落ち込みを高金利による資産運用などでカバーすることも一つの方策だ。実際に、不況期に日本本社を説得して投資を増やし、運用益で本業の損をカバーしていた事例があった。「冬」の時期は通貨安ゆえドルの可用性が高まる上に、ブラジルの金利上昇幅は大きいため、現地通貨建てでの運用益も小さくない。またサービス業界では、不動産の貸し手側の交渉力低下を好機と捉え、自社に有利な出店スペースを確保した例もある。さらに、将来キャッシュを生みそうな企業を「冬」に買収する事例も見受けられる。
豊富にあるビジネスの種
日本はいかに進出できる?
ブラジルは、世界屈指の資源国でありかつ広大な国土ゆえの巨大なインフラ需要、2億人超の国内市場を持つ国だ。それゆえ、ブラジルでは欧米のみならず中国を筆頭にインドや東南アジア
の企業も事業を拡大している。今後、日本企業は投資先としてこの国をどう捉えるべきか。
1970年代に日本は、二国間プロジェクトを通じ、ブラジル中西部の灌木地帯を大豆の世界的産地に変えた。ブラジルは新たな輸出産業を獲得し、日本は米国からの大豆依存度の引き下げが可能となった。
しかし、今やブラジルは辺境のフロンティアではないし、国家主導のプロジェクトという手法自体、過去のものとなっている。ブラジルに展開済みの日本企業による政府・自治体へのアプローチも、マスタープランの提示を通じた課題解決の提案などのスタイルに変わってきている。
ブラジルへの投資を今後検討する上では、現政権が目指す社会・産業高度化と自社ビジネスの相性を探るのも一案である。
ルラ政権は、知識集約産業や環境・再生可能エネルギーの活用に適した分野への投資を促進することで社会包摂的要素を含んだ経済成長を目指している。具体的には、2024年に発表した「新ブラジル産業政策」の中で、農業・食、医療・保健、バイオエコノミー・脱炭素・エネルギー転換、産業DXなどを重点項目として挙げている。
農業においては肥料の自給率向上や、33年までの家族農業の高度機械化率66%などの目標が定められた。医療分野では医療機器の国産品シェア目標が7割に設定された。これらの分野では日本のスタートアップにも参入余地があろう。脱炭素・エネルギー分野はすでに日本企業も事業を展開している。なお、医療・健康分野や運輸部門など健康や安全にかかわる領域では日系人が醸成してきた「勤勉・正直」といった評価を大切にしたいところだ。基準・認証のブラジル政府への提案などの局面で日本への信頼感は、他国の競合に際して差別化要素になりうる。
ブラジルは、イノベーションのカギとなる「技術」と「信用」を兼ね備えた中小企業が日本に多いことに注目している。今までブラジルを眼中に置いていなかった企業も、イノベーションと環境ビジネスを軸に産業高度化を目指すブラジルで、新たな自社ビジネスの種を見つけられる可能性がある。

