トランプは、訪問中終始上機嫌で、国賓晩餐会でこの訪問を「人生最高の栄誉」とまで述べ、英国側に謝意を表したが、関税関係では何らの譲歩も行わず、対ロシア制裁やガザに関しても何らの進展も見られず、1500億ポンドの対英投資についても、かなりの部分は既定の計画の積み上げであるという。
この社説は、訪問中に二国間関係が気まずくなるような事態を避けることができたことは両首脳間の関係が親密であることを示唆するとしても、英国側にそれ以上の成果がなかったことは、「特別な関係」が対等ではなく従属的なものであるとの印象を内外に残したと批判している。フランスやドイツの主要紙も、歓迎の派手さに比べ成果が無かった面を強調し、欧州の無力さを象徴するといった論調が多い。
確かにパレスチナの国家承認など異なる意見を持つことを公的な場で認めながらも、首脳間の関係がこじれるようなことはなく、国賓訪問を無難に乗り切ったことは、トランプとの信頼関係を確認できたと云えるのかもしれないが、それだけが成果であるとすれば、やはりこの社説が指摘するように破格の厚遇とのバランスを欠いているようにも思える。
トランプが馬耳東風でも続けるべきこと
とはいえ、この社説も認める通り軍事力や経済力での米国の存在は圧倒的であり、正面から批判したり反対したりすることがもたらす不利益は目に見えている。スターマーとしてはそのような制約の中で英米間の「特別な関係」を梃子にして、今後とも自国の国益とウクライナやガザに関する欧州の共通の立場を主張するための最善の努力をしたということであろう。
しかし、スターマー政権としてやるべきことが他にもあることも確かだろう。短期的にはトランプの取引主義を逆手にとってwin-winを目指してできるだけ有利な条件で交渉を続けることであり、中長期的には、過度の対米依存に陥らぬよう日本など12カ国が加盟する包括的・先進的環太平洋経済連携協定(CPTPP)やEUとの関係の強化、インド等との貿易・投資関係の強化等、経済関係の多様化にもっと努力するということだろう。
このようなスターマーが直面している状況は、日本にも参考になることもあろう。トランプの過剰な反応や気まぐれは予見し難いが、馬耳東風であるとしても言うべきことは言い続けるとともに、多少のお世辞やトランプのエゴにある程度対応することは必要悪として割り切るしかない。他方、受け入れ難い不利益に同意できないことは、取引の論理として、トランプも理解できるはずなので、そこはよく説明して交渉するしかない。

