2025年12月7日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年10月28日

 中国は南シナ海を「九段線」を引いて支配しようと試みたが、2016年の国連海洋法裁判所の判決でその主張は退けられた。以後、英国を含む多くの国がその判決を支持し、南シナ海の航行の自由を確認している。

 海洋諸国は経済規模が大きく、自由な貿易がその国際貿易に不可欠であるため、ASEAN以外の多くの諸国からの投資や安全保障協力を引きつけている。2017年以降、西側諸国と東南アジア諸国との新たな防衛協力の多くは、海洋諸国とベトナムを対象としている。

 海洋諸国は中国による排他的経済水域への侵入の脅威にさらされており、米国やその同盟国(日本・豪州など)との安全保障連携を強化している。米国はフィリピンとの軍事演習を通じ「第一列島線」へのアクセスを維持し、中国の圧力に直面するフィリピンへの支援を拡大している。

 今後も東南アジアの二極構造は続くとみられる。海洋諸国は引き続き世界の多くの国々との関係を維持し、中国が最大の影響力を持つとしても、米国・豪州・インド・日本などの存在が均衡をもたらす。一方、大陸諸国は中国の事実上の勢力圏に近づく可能性が高い。

 米国にとり、鍵を握るのはベトナムとタイである。米国がベトナム・タイとの協力を深めれば、海洋東南アジアの開放性を維持し、中国の地域支配を抑制し、インド太平洋全体での利益を守ることができるだろう。

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一朝一夕では解決できない米国の課題

 歴史を振り返れば、1990年代初頭の冷戦終了の波は東南アジアにも及び、東西対立の構造が崩れるに従い中国共産党浸透の脅威が希薄になり、世紀が変わる前にASEANはインドシナ諸国を迎え入れて拡大を果たした。世界に新たな対立が復活した昨今、その構造に亀裂が東南アジアに復元するのは、ある意味で歴史の必然であるのかもしれない。

 上記論説の筆者は、ベトナムについて大陸グループに含めているが、同国の南シナ海における中国との対立構造、日本との関係の深化、環太平洋経済連携協定(TPP)への加盟、米国との関係の改善速度などから見れば、たとえ共産党体制を名目的に維持していても、以前はともかく、現在はむしろ海洋グループの範疇に入れる方が自然ではないかと思われる。


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