たしか「自然の驚異は必ず物理的理由によって説明ができる」といったくだりがありますが、理学では、物理法則のもとにすべてを理解したいと思う。理解できるはずだと思って、やっている。実際には、なかなかそこまでいかないのですけれど。
とくに地質学は、たとえば物理と違って実験もできないし、因果関係を証明することが難しい。わたしたちは地中のことをよく知っているつもりでいるけれど、現物で手にできるのはほんとに限られた部分だけ。あんなふうに「地底旅行」ができればいいなぁと、いまでも空想しますよ。わたしも、あんなふうに潜っていきたいなぁと(笑)。
──『南極越冬記』は、さきほどのお話にも出た、第一次南極越冬隊の生活記ですね。
藤井氏:南極地域観測隊の第一次越冬隊長である西堀栄三郎さんが南極から戻り、その記録である『南極越冬記』が岩波新書から刊行されると、すぐに買って読みふけった。ギリギリの条件下におかれた南極生活のあれこれが、とても面白かったし、あこがれました。
西堀さんが宇宙塵(天体の欠片)の調査をやるのですが、専用の実験設備がないところで、一から自分の手で整えていく。「何かを知りたい」というつよい意志に、とても共感しましたね。
そういえば大学で地質学教室に入ったとき、助教授の立見辰雄先生は、夢中で読んだ『南極越冬期』に登場する副隊長格(地質担当)その人だったんです。
──大学に進み、いよいよ地質学への道を歩きはじめるわけですが、その道標となった本はありますか?
藤井氏:やはり久野久先生の『火山及び火山岩』(岩波全書:1954年刊)。バイブルのようなものですね、わたしたちにとっては。
進路振り分けガイダンスで、久野先生はマグマの成因に関する話をした。インド大陸のデカン高原は、白亜紀末期の大きなマグマ活動による洪水玄武岩でできた溶岩台地ですが、このマグマの成因が分からない。だからやらなければ──。
のちにわたしは地震研究所に就職し、デカン高原でマグマの成因の研究をすることになりましたが、久野先生の話がずっと頭に残っていたんですよ。
『火山及び火山岩』は大学3年生のとき、ちょうど東大紛争のさなかにはじめて読みましたが、一人の優れた研究者の強固な思想に貫かれていて、感激しましたね。