2025年12月9日(火)

未来を拓く「SF思考」

2025年11月17日

 大ヒットした小松左京の『日本沈没』も発売と同時に書店に飛んで買いに行きましたね。

 海外のSFも好きでした。中でも、エドモンド・ハミルトンの『キャプテン・フューチャー』シリーズには、やはり小学生時分ですが夢中になりました。ライト教授という、脳だけになって培養液中で生き続けているレギュラー・キャラクターがいたのですが、大人になってからこのキャラクターには〝元ネタ〟があったと知りました。それは、イギリスの生物・物理学者のJ・D・バナールが発表した、『宇宙・肉体・悪魔』という人類未来論の古典とされる科学思想書です。

のちのSF作品に影響を与えた本
宇宙・肉体・悪魔 新版
J・D・バナール(著)
鎮目恭夫(訳)
みすず書房 2970円(税込)

 100年以上前の本でありながら、未来の人間はやがて手足や内臓を不要とし、脳だけを切り離して桁違いの長寿を得、さらに別の人間の脳を連結していくことで、知識や思考を共有し、高度な「群体頭脳」になった永遠の生命体へと進化すると予測しているのです。

 SF作家のアーサー・C・クラークは本書を「史上もっとも偉大な科学予測の試み」と評しました。実際この「群体頭脳」の思想なくして今日の電脳世界なしというくらいのものだと思います。

一国にとって
SFが隆盛する意味

 私は、歴史的に見て、SF力は国力に直結するものと考えています。

 『海底二万里』や『地底旅行』で知られるフランスのジュール・ヴェルヌ、『タイム・マシン』や『宇宙戦争』を書いたイギリスのH・G・ウェルズ、『シャーロック・ホームズ』シリーズで有名ですが、『毒ガス帯』や『霧の国』といった作品もあるコナン・ドイルは、まさにSFの三大元祖と言っても過言ではない存在です。

 彼らが生きた19世紀から20世紀前半は帝国主義の時代。産業革命が世界を変え、科学技術も飛躍的に発展した時代でした。世界初の国際博覧会「ロンドン万国博覧会」が開催されたのは1851年。55年にはフランスでも万博が開かれました。資本主義の進展とともに、産業・科学・交通・軍事・経済力が飛躍的に発達した英仏は、万博をまさに国威発揚の舞台として位置付けたのです。

 そうした中、10年後、30年後、50年後の世界がどうなっているのかを予測しながらストーリーに結び付けたのがジュール・ヴェルヌやH・G・ウェルズでした。しかも、彼らだけでなく、多くの国民も期待感に胸を膨らませていた時代です。

 その一方で、カタストロフ的な予測もありましたが、未来を想定して形にするのがSF作家の役割でした。

 つまり、国として〝伸びしろ〟があり、大国になる条件が整い、国民もその気になっている国ほど、読み手が広がり、SFは隆盛する好循環が生まれやすいのです。

 だからこそ、SF文学はイギリス、フランスで隆盛し、やがて「SF」へと進化しました。その後、20世紀はアメリカが圧倒的にリードし、日本でも、そして今では、中国にものすごい勢いがあります。まさしく、SFとは国力を示すバロメーターなのです。


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