しかも、日本企業には縮み志向や現状維持思考が蔓延し、活力を失っています。研究の世界も専門分野が細分化し、スマホやネットの発達によって、個人の関心範囲は極限まで狭まり、他分野を知らず、興味を持てない人が増えています。このままでは、自分の世界しか見えず、世界全体が見えなくなる、理解できなくなる日が訪れるでしょう。
ただ、こうした状況であるからこそ、私は、苦しくとも、SF的な力を駆使し、日本の将来構想を提示していくべきだと感じています。
専門分化が進んだ世界
今こそネットワークが重要に
70年万博で左京は文化人類学者の梅棹忠夫などをはじめ、多様なネットワークを駆使し、「人類の進歩と調和」というスローガンとコンセプトを練り上げました。左京は、勉強はもちろん、グループづくり、ネットワークの構築にも努力を惜しみませんでした。他のSF作家と異なるのは、まさにこの点にあります。
そのための〝馬力〟も備えていました。しかも、各専門家の知恵をパッチワーク的に寄せ集めた総花的なビジョンではなく、横串を通して提示していたのです。
専門分化が行き過ぎれば、個人個人は優秀であっても日本としての総合力は発揮できません。しかも、日本は、世界でも経験したことがない少子高齢化社会を迎え、弥縫策では対処不能な課題が山積しています。
まさに「諦めれば後がない社会」なのです。であるからこそ、左京的な知性と馬力、そしてネットワークが求められており、SF的な思考を持った人々の力が大いに発揮される世の中にしていくべきでしょう。
ただし、世の中は一足飛びには変わりません。またグループづくりやネットワークを構築するにしても、何かを得ようとする「打算的な」人間関係では長続きしません。
読書も同様で、何かを得ようとしてSFを読むのではなく、楽しんで読むことが何よりも大切です。論語には「これを知る者はこれを好む者に如かず。これを好む者はこれを楽しむ者に如かず」という一節があります。楽しむこと。まずはそこから始めて、私たちの手で、日本をもっと、独創的で活力ある国にしていこうではありませんか。(談)
