2025年11月8日(土)

未来を拓く「SF思考」

2025年10月29日

 「対ゾンビ軍事作戦計画」と聞けば、まるでフィクションの世界のようだ。だがこれは実際の話で、2011年に米国防総省(現・戦争省)が発表した計画である。つまり、国が主導して〝衝撃的〟な未来に備えているのだ。

 SFを通じて未来を考える「SFプロトタイピング」という手法がある。米インテルの未来学者であるブライアン・デイビッド・ジョンソンが生み出した概念で、簡単なSFをつくり出し、未来像を語り合うというものだ。

 日本におけるその伝道師である宮本道人さん(SF実装研究所最高経営責任者〈CEO〉)の監修のもと取り組みを進める、産・官・学それぞれの現場を訪ねた。

CASE 1 日工(兵庫県明石市)

日工R&Dセンター開発支援部・知財管理課主任の垣本伊守幹さん。同社にSF思考を浸透させた仕掛け人の一人だ(写真・生津勝隆)

 2058年。都市直下型の巨大地震が街を襲った。その現場に駆けつけた大型ヘリコプターとドローンが、ある部品を空中で組み立てていく。完成したのは、アスファルトをつくり出す「コンパクトプラント」。迅速な災害復旧にあたるためだ。

 震源地付近の道路内に埋め込まれたナノセンサーから次々と情報を受信し、被害状況を把握していく。情報の発信源へ向かうと、ガレキを分別するロボットや、各家庭が飼っている超小型の「ペットプラント」がすでに到着し、道路の補修作業を始めていた─。

 これらの内容はもちろん、フィクションだ。しかし、現実のビジネスとどこか地続きでもある。

 兵庫県明石市に社を構える日工は、アスファルトと生コンのプラントをどちらも手掛ける国内で唯一の会社だ。冒頭の物語は、昨年同社で創作されたSF小説内の一幕である。

 「役員からの依頼でDX製品開発のロードマップの第一案を作成したんですが、『どこかで見たことがあるような内容だ。もっと〝突き抜けた〟アイデアが欲しい』と却下されたことが事の発端です」

 同社R&Dセンターの技術開発部・開発3課DX技術ユニット係長の藤谷来輝さんは、開発支援部・知財管理課主任の垣本伊守幹さんとともに、SFプロトタイピングに臨んだきっかけを明かす。


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