2025年11月18日(火)

未来を拓く「SF思考」

2025年10月27日

 脳の健康について探求する池谷裕二・東京大学薬学部教授は、一般の人に向けて脳に関して分かりやすく解説し、脳の最先端の知見を社会に還元することにも尽力している。2018年からはERATO 池谷脳AI融合プロジェクトの代表を務め、AIチップの脳移植によって新たな知能の開拓を目指している。

 そんな池谷氏は、人間が空想することの意義をどのように捉えているのか。また、爆発的に普及し、社会実装される生成AIに人間はどう向き合っていくべきだと考えているのか─。

池谷裕二(Yuji Ikegaya)
東京大学薬学部 教授
1970年静岡県藤枝市生まれ。東京大学大学院薬学系研究科で博士号取得。2002~05年に米コロンビア大学留学を経て、14年より現職。専門分野は神経生理学。著書に『生成AIと脳』(扶桑社新書)、『海馬』(糸井重里氏との共著、朝日出版社/新潮文庫)など多数。(写真・井上智幸以下同)

 人間にとって、空想することとは、どういう意味があるのでしょうか。

 例えば、あなたが手ぶらでジャングルを歩いている時、木立を横切る何かの動きが目に入ったとします。それがライオンなのか、人間なのかは定かではありません。さて、どうするか─。こうした限られた情報から全体を見通すには、知識や経験に根ざした空想力、想像力、発想力で補うほかないのです。

 人類が狩猟採集から農耕牧畜へとライフスタイルを転換したのは約1万年前とされます。農耕牧畜の時代は、危険を冒してまで獲物を追った狩猟採集の時よりも空想力が衰えたのではないかと思われがちですが、そうとは限りません。安定した食料の生産と確保には、天候や自然の摂理を読み取り、種まきや収穫の時期を見極めるなど、それまでとは異なる空想力が求められたからです。

 翻って現代社会は、「あの人は私に好意を持っているのか、敵意を持っているのか」「仲間になれるのか、なれないのか」など、複雑な人間関係を日々の言動から空想・想像することが多くなりました。

 突き詰めれば、人間にとって空想する最大の目的は「何かに備える」「準備する」ことだといえます。


新着記事

»もっと見る