2025年12月7日(日)

未来を拓く「SF思考」

2025年10月27日

 ただし、受験勉強で育った多くの日本人は、空想力・発想力を発揮する機会が乏しく、十分なトレーニングもされないまま大人になる場合が多いのも事実。そして、社会人になると日々のルーティンワークに追われ、柔軟な空想力・発想力を奪われがちです。つまり、両者のバランスをどう取るかが、これまでの社会では重要な課題であり続けました。

生成AIで変わる社会
人間の脳の使い方も……

 しかし、生成AIの誕生で、その前提自体が揺らぎ始めています。

 現在の第3次AIブームは、これまでとは違い、ディープラーニング(深層学習)が主要技術となり、生成AIはあらゆる分野で社会実装されています。もはやブームではなく、「三度目の正直」なのです。

 一方、「AIによって人間の仕事が奪われる」という言説は根強く、AI隆盛の未来に懸念を抱く人は少なくありません。2013年に発表されたオックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン博士の論文『雇用の未来』には、今後10~20年間でAIなどによる自動化が進み、アメリカにおける雇用者の47%が仕事を失う可能性が高いと結論づけられ、多くの人に衝撃を与えました。

 ただし、私はAIに代替されて消滅する仕事はわずかで、なくならない仕事の方が多いと考えています。その代わりに、仕事のタスクや内容は既存のものとは大きく変わっていくと考えています。

 例えば、教師の仕事。AI教師が普及すれば「教える」ことがメインだった仕事が、AI教師の指導についていけなかった生徒をフォローしたり、説明を補足したりすることへと変化していくでしょう。

 それは、AIの〝尻拭い〟のように感じる人もいるかもしれませんが、私はこれこそが人間がやるべき重要な仕事だと考えます。

 つまり、生徒に対するケアや心を通わせたコミュニケーションなどは、今まで以上に人間の果たすべき役割が大きくなるはずです。そうなれば、人間の脳の使い方も変わっていくでしょう。

 とはいえ、生AIの加速度的な進化には驚かされるばかりです。

 SF作家のアーサー・C・クラークはかつて、「十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない」という有名な言葉を残しました。

 例えば、ニュートンやレオナルド・ダ・ビンチが、彼らの時代には存在しなかった、エンジンを搭載した車や飛行機、蒸気機関車を目にしたとしたら、驚きはするものの、やがてその技術を理解できるようになると私は思います。なぜなら、可燃性の物質を爆発させてピストンを動かし、それを回転運動に変えるという「原理」は、彼らの知識でも十分に理解することが可能だからです。

池谷さんおすすめのSF作品
夏への扉
ロバート・A・ハインライン(著)
福島正実(訳)
ハヤカワ文庫SF 1078円(税込)

 原子力発電所の場合はどうでしょうか。おそらく理解は及ばず、「魔法」のように映るはずです。なぜなら、核分裂や核融合の原理は、彼らの時代には未発見のものだからです。

 生成AIの誕生によって生まれる新たな社会やテクノロジーは、このことと似ているのかもしれません。

 科学とは本来、人間が世界の仕組みを理解するための知的手段の一つです。それは、未知の現象に対して仮説を立て、検証を積み重ねることで、自然界の法則性を明らかにしようとする営みでもあります。

 生成AIはその既存の価値観を転換させ、科学のあり方を根底から変える可能性があります。

「そんな未来で良いのか?」という意見があるかもしれません。

 しかし、高度な科学をAIが担い、社会課題の解決に役立つ知見を人間が活用することで、世の中が進歩するならばどうでしょうか。あるいは、地球温暖化のような難題を解決することができるようになれば、新たな希望が生まれる可能性もあります。


新着記事

»もっと見る