二人は、土木の現場における省人化や生産性向上、国土強靭化やレジリエンスの確保など、社会課題の文脈に沿いながら、決してありきたりな思考にとどまらず、「手触り感のある未来像」を再考する必要性に迫られていた。そんな中、社内の「共通言語」になったのがドラえもんだった、と垣本さんは言う。
「例えば、タケコプターをビジネスにブレイクダウンして言語化すると、個人所有された空輸の形態、というところまで落とし込めます。つまり、現実とはかけ離れた世界観の中にも、事業の方向性として抽出できる要素があるんです」
一緒に〝SFをやる〟
仲間を増やしたい
ただ、自由な発想を持つだけでは一面的だと垣本さんは言う。
「独りよがりな発想では、周囲を巻き込むことができません。また、明確な『目的地』を示してしまうと、社内外から『お上からのビジョン』として受け取られ、対話が欠落します。現場の保守の仕事は過酷です。実務の担当者にも理解され、かつ多くのステークホルダーが包摂される未来像を描きたかった」
思い立った垣本さんは、学生時代からの友人であるSF戦略コンサルタント・宮本道人さんに相談。年代・役職・部署の垣根を越えた11人が集い、童心に返って意見を交わした。
「土木構造物は、私たちの身近にあっても、肌で触れるような機会は少ない。もっと、親しみを持ってもらえないか……」。参加者の一人がつぶやいたそんな一言から出た発想の一例が、アスファルトの中を泳ぐ「世界女子アスファルト泳選手権2055」だ。
ぶっ飛ぶにも程がある──。そう思う読者もいるかもしれないが、突拍子もない発想も認め合いながら、それを「最終目的地」ではなく「ビジョンの一環」として提示できるよう、小説へと落着させたのだ。社内の役員からは「事業として実現可能性の要素を含んでいる」「勇気をもらった」と評価されたという。
垣本さんは言う。
「SFの『S』はサイエンスに限らず、スペキュラティブ(思弁的)であり、ソーシャルにも当てはまります。また『STS(Science, Technology and Society)』という、科学技術と社会との関わりを人文社会科学的な視点から探求する学問分野がありますが、企業にはそうした考察が不可欠です」
日工は10月、3年に一度の展示会を開く。そこで今回描いたビジョンを社内外に提示する予定だ。
「絞り出したアイデアは、自分たちだけでは叶えられません。これから『未来インフラ共創会議』を立ちあげて、異業種間の交流を図ります。一緒に〝SFをやる〟仲間を増やしていきたいです」
