CASE 3 筑波大学
「この講座の目的は、課題を解決する手法を会得することではなく、課題を『創造する』こと、自らの力で見出すことにあります」
同大学副学長(産学連携担当)の中内靖さんが紹介してくれたのは、経営者や起業家を目指す人材向けの「STEAMリーダーシッププログラム」。受講者は約半年間、同大学の最先端の研究を学ぶ。
そこで、同大学の産学連携准教授でもある宮本さんが、継続的にSFプロトタイピングの指導を行っているという。
小誌取材班は、その様子を間近で見学させてもらった。
想定外の「未来のタネ」を
見つけ出すためには
建設、医療、コーヒー事業など、多種多様な6人が集まってこの日議論したのは、「40年後の新幹線」というテーマだった。
進め方はこれまでに紹介した手法と同様である。テーマに関連する単語として「車掌」、受講者の趣味など周辺に関わる単語の一つとして「ペアリング」という単語が挙がり、「ペアリング車掌」という奇抜な造語が出来上がった。
いったいこれがどういう意味を持つ言葉なのか─。小誌記者は戸惑いながらも、考えたこともない未来に高揚した。
その造語をもとに、受講者それぞれが思い描いたイメージを次々に語り合っていく。
例えば、乗客が乗車後、VRを装着して理想の相手を探し、それを車掌の手でマッチングさせる……。今では、マッチングアプリが出会いの手段になっているが、新幹線車内そのものを出会いの場に変えてしまおうという想定だ。突拍子もない発想を掛け合わせて、なぜそうなるのか、というストーリーを後付けする。それを繰り返すことで、受講者たちは何度も、空想と論理の〝狭間〟を行き来していた。
実はこの過程に、宮本さんの狙いと核心があった。
「いきなり未来のことを考えようとせずに、自分たちで言葉の素材を出して掛け合わせてみたら、思ってもみなかった言葉が生まれましたよね。これが大切なんです。
新規事業を考える時の鉄則でもありますが、最初から正解にたどり着こうとすると、必ず凡庸なアイデアに終わります。いくら『ひらめいた!』と感じても、自分の持っているリソースの中から発想する以上、凡庸なんです。
経済学者のシュンペーターは、イノベーションを『新結合』と定義しています。つまり、何か二つのアイデアが結合することによって、新しいアイデアにたどり着くということです」
一方で、「こうした未来の実現のためにはどのような技術革新が必要とされるのか、という考察力をもっと磨いてほしい」という受講者へのフィードバックもあった。
文系・理系の枠組みにとらわれずに、科学技術と社会との関わりを日頃から感度高く考察することが、個の思考力を涵養することにつながるのだ。宮本さんは語る。
「私たちはつい、物事を順序立てて、論理を積み上げることで正解を求めてしまいます。
しかし、そのままでは、想定外の『未来のタネ』を見つけることは難しい。トレンドの『予測を当てる』という感覚を捨てる勇気を持つこと、そして、未来の多様な可能性を洗い出す空想力と、それを裏付ける科学的思考力の習得がこれからの時代に欠かせません」
SFには、規律やしがらみに縛られた日本人の潜在力を開花させる力があるのかもしれない。
