世界は秩序を支える新たな勢力を必要としているが、それが現れる兆候は見えない。中国が力を伸ばしているが、米国が果たしてきた役割を担う用意はできていないし、中国が目指しているのは、権威主義体制にとって安全な世界である。
アジアと欧州における米国の同盟国は、リベラルな国際秩序の中で、残せるものを保持すべく力を合わせるかもしれない。数年の内に、米国の大統領に、他のグローバル・リーダーと共に新たな国際秩序を構築し、中国の進出を抑えるために取り組む機会が与えられるかもしれない。新たなビジョンによって、無秩序を秩序再構築の機会に変えられるかもしれない。
そのためには、米国と選ばれた同盟国との間で技術・経済・安全保障面での協力を深化させること、経済発展の創造的なアプローチを始めること、国とともに主要な企業が役割を果たすような制度を構築することが必要である。
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国際秩序のほころびの要因
リスナー(元副大統領の国家安全保障の首席副補佐官)とラップ=フーパー(元NSC 上級アジア部長)というバイデン政権の要職にあった二人が第二期トランプ政権によって従来の国際秩序が壊されている状況を捉え、当面の世界がどうなるのか、新たな秩序の構築は可能か等を述べた論説である。
リスナーらが論ずるように第二期トランプ政権が従来の国際秩序を破壊するような行動を重ねているとの指摘に異議はないが、国際秩序のほころびでトランプに起因しない問題も少なくない。
ロシアと中国が従来の国際秩序に対する現状変更勢力となっていること、ロシアは自国の目的を達するためには武力行使をためらわない国となっていること、それらのために国連安保理が機能不全に陥っていること、米国の国力が衰え国際秩序を守るための意欲と能力が低減していること等。これらは、別にトランプが生み出した状況ではなく、米国を含む国際社会の構造変化で、トランプだけを問題にすれば済むほど単純ではない。
リスナーらが論じる世界の近未来像は常識的なものである。確かに「混沌とした空位期間」が続くだろうし、さらなる暴力が予想される。ただ、二人の著者は容易な予測しかしていないとも言える。世界の現状が無秩序に向かっていっていると言っても、基本的に、今の状況が続くことを想定しているかのようである。
