2025年12月9日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年11月17日

 一方、問題はそれで済むかどうかである。我々が想定しておかなければならない可能性は、欧州においてはロシアの野望がウクライナで止まらない事態であり、アジア太平洋地域においては、中国の台湾侵攻である。それらが起これば、単なる「混沌とした空位期間」というのでは済まない世界情勢の地殻変動となる可能性がある。

「アメリカ・ファースト」は残る

 トランプは、米国を中心とした同盟体制を弱体化させることで、そうした事態への抑止力を低下させている。また、トランプが重視する大国との取引、指導者との個人的な繋がり、経済的手段への依拠が、現実政治の前でいかに無力かは、ロシア・ウクライナ戦争への対応でのトランプの右往左往振りに表れている。

 リスナーらが指摘する、新大統領の下での秩序の再構築への取り組みについては、楽観的に過ぎる印象が拭えない。米国が「選ばれた同盟国」との間で協力を深化すべきことには賛同するが、トランプが去っても、米国における「アメリカ・ファースト」への力学は残るだろう。そうした中、どうやって安全保障分野での同盟国との協力を維持することができるかが大きな課題となろう。

 リスナーらは、2028年大統領選挙で、民主党候補が大統領の座を奪回することで新たな秩序の構築への道筋が開かれることを期待しているのであろうが、少なくとも現時点では、民主党はそうしたモメンタムを作り得ていない。また、民主党は、トランプに起因しない、米国を含む国際社会の構造変化への対応策を明確に示せているわけでもない。そうした弱みがこの論説にも見られる。

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