2025年12月13日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年11月21日

 また、最近は、連戦連勝に酔うイスラエルのユダヤ人が自信過剰に陥り、イスラエル主導で中東の再編を行うべきだという声が聞こえて来る。そして、イスラエル・イラン・トルコという三大軍事大国の鼎立状態が6月の12日間戦争で壊れたことは、中東の地政学的な状況に大きなインパクトを与え、イスラエルの視線に立てば、イランが弱体化した後にイスラエル主導で中東を自国主導で再編する上でトルコが目の上の瘤に映る。

 しかも、長年、イスラエルとトルコの間の緩衝国だったシリアで親イランのアサド政権が崩壊し、代わりにトルコが後ろ盾のイスラム過激主義者グループのアルカイダの元メンバーのHTSが政権を握ったこともイスラエルの直接的な安全保障上の脅威と受け取られているのは間違いない。イスラエルは、シリア国内のドゥルーズ教徒の保護を名目にシリアへの軍事介入を続けている。

トルコの立ち位置

 トルコのエルドアン大統領がイスラム原理主義者であることは間違いなく、トルコにハマス関係者が滞在している様にトルコがハマスに好意的な事も事実だ。しかし、トルコの優先アジェンダは、分離主義的傾向のあるクルド系への対処が第一であり、昨年12月のHTSがアサド政権を崩壊させたことも、そもそもの狙いは、HTSがアサド政権を牽制している最中に北シリアに割拠するクルド勢力の掃討が目的だったと言われている。

 しかし、トルコとしてこの僥倖を利用しない手は無く、シリアにトルコの影響力を強めようとするのは自然の成り行きであろう。そもそも、第1次世界大戦でオスマン・トルコ帝国が解体されるまでシリアはトルコの一部だった。その意味でトルコにオスマン・トルコ帝国の復活への野心が無い訳ではないであろう。

 6月の12日間戦争でイスラエル・イラン・トルコの三大軍事大国間の鼎立状態が崩れた結果、中東はますます不安定化している。なお、米国が元アルカイダのシリアの暫定大統領を招待したことは、米国が中東に関与しないという兆候かも知れないが、イスラエルにとり頭の痛い出来事だと言えよう。

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