2025年12月5日(金)

教養としての中東情勢

2025年10月15日

 イスラエルとイスラム組織ハマスが米国のトランプ大統領の「和平計画」を受諾、ガザ戦争の停戦が発効した。イスラエル軍は部分撤退、ハマスは10月13日、人質のうち生存者20人を解放。戦争継続を望んでいたネタニヤフ首相の思惑は平和の実績を挙げたいトランプ氏の意向で大きく外れた。追い込まれた首相は今後、難航するハマスの武装解除交渉などを機に戦闘再開を狙う。

トランプ大統領(右)がイスラエルを訪れ、ネタニヤフ首相と会談した(Chip Somodevilla /gettyimages)

ハマスの「保証」、ネタニヤフの「縛り」

 ネタニヤフ首相にとってこの間の展開は、描いたシナリオが目の前でどんどん独り歩きし、望んでいなかった方向へ猛烈な勢いで逆回転していると思えたことだろう。その中心にいるのは首相が後ろ盾として最も頼りにしてきたトランプ氏だ。

 ベイルートの消息筋によると、首相は当初、ハマスが人質の全員解放に同意するとは思っていなかった。なぜならハマスはこれまで、イスラエル軍の部分撤退に応じて段階的に人質の解放を行ってきたからだ。

 ハマスにとって人質は自分たちを守る切り札で、「軍の全面撤退なしの解放」に応じるはずがなかった。解放すれば、イスラエルに攻撃を許してしまうからだ。

 誤算はハマスが人質の全員解放に応じたこと、トランプ氏が「戦争は終わった」と一方的に宣言、「イスラエルに攻撃させないためあらゆる措置を講じる」などとハマスに公約を与えたことだ。それまで首相は人質さえ取り戻してしまえば、攻撃を再開するのは容易だと思っていた。

 ハマスにとってはトランプ氏の公約が唯一の「保証」であり、首相にとっては逆に停戦を守らなければならない「縛り」となった。トランプ氏の存在が今や「仇になった」(ベイルート消息筋)。しかも、トランプ氏はイスラエル国会で演説した後、合意の調印式のためエジプトの保養地シャルムエルシェイクに飛び、エジプトのシシ大統領とともに「ガザ和平サミット」を主催した。


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